オモイビト!ーペンダントとネコガミ様ー

結花紡樹-From.nanacya-

第1話「選ばれし者と黒猫」

「はぁ…猫になれたらいいのに。」

私はそう呟いた。どこにでもいるような普通の平凡中学生。別に私がいなくてもいいんじゃないかな?って思うくらい平凡で、私は世界の外側にいるみたい。

学校に行くと何人かの友達と喋って笑って授業して、部活して終わり。そんな変哲のない毎日を送っていた。そんな日ばっかりだと、いつしか揺るぎを求めてしまう。


そんな時はいつもの通学路から遠回りして、草むらや紫陽花が煌き咲く道を通る。煉瓦造りの家に咲くクチナシは、雨上りの太陽に照らされて露とともに眩しいほど輝く。

そんな綺麗な道を通っていると、ふと目に入るものがある。不思議な猫の置物だ。

これを見ると、なんだかほっこりするのだ。リアルでもないが、妙な落ち着きのある置物。眺めてからふと周りを見ると、猫があちらこちらにいる。こんな現象があるから、私は勝手に「ネコガミ様」って呼んでる。


今日は、そんなネコガミ様が動いた気がした。


「え?」

思わず呟いた。その時、私の周りに急に猫が寄ってきた。と思うと、1匹の猫が日本語で話しかけてきた。

「猫になりたいか?」

そう言われ、思わず衝動で頷いた。

「…そうか。では目をつぶれ。」

目を瞑ると、真っ白な世界に投げ込まれた。


目を覚ますと、草の上だった。あったかい日光に照らされ、「もっと寝たい」と思っていた時、

「おい、目を覚ませ馬鹿野郎」

と罵声が飛んできた。しかし、優しさもこもっていた。

目を開けると、草の色や青空が一斉に視界に入る。

「まぶしっ…」

と思い、手を動かそうとするとどうにも気持ちが悪い、しかも、なんだか見えている色もいつもと違う。

慣れない中、首を動かすと手には肉球があった。そして反対側を向くと黒猫がいた。

「ひゃっ!」

と驚き体を起こそうとしたら立ち上がれずころころ転がってしまった。

「無茶すんなよ…お前そのままでいいから話聞け」

といい、黒猫は話し始めた。正直、声が可愛すぎてあまり覚えていない。

「お前は今、猫だ。正真正銘の猫。これを覚えておけ。そしてお前は人間。選ばれた人間だ。」

「…ほえ?」

声を出すことも難しくて、相槌すら打てないが、なんとも黒猫ちゃんが可愛くてそんな悩みは吹っ飛んでいった。

「とにかくお前は今猫なんだよ。まず歩くぞ」

そういい、私は黒猫に「猫」として生きる方法を教えてもらった。


一通り歩いたり声を出したりすると、黒猫はつぶやいた。

「人間に戻りたかったら、ここで「人間になりたい」と強く念じろ。そうしたら人間になれる。もし猫になりたいときは、あの仏像様のもとで「猫になりたい」と願え」

そう教えてくれた後に一言。


「このことは誰にもバラすなよ」


声のトーンが重かったので、これは嘘じゃないとわかった。そして仏像様は、「ネコガミ様」だった。

しばらく周りを歩き、ふと疲れたので空を見ると遠かった。人間の頃よりも遠い青空。

(人間の時のほうが…空が近くて綺麗だな。でも、ここから見る空もまた違って綺麗)

いつしか思うようになった。

そして疲れたのか寝てしまいそうだったので、きた道を戻った。

迷子にならずにどうにか辿り着き、草むらに飛び込んで駆け出した。

着いたところは、猫になった場所。


私は元いた場所で「人間になりたい」と強く願った。


すると、体が異空間のような場所に放りこまれた。途端、体が急に重くなり、その場に倒れてしまった。





目を覚ますと、原っぱの上だった。ここは、ネコガミ様の近くにある場所。そこで気づいたら、なんともう夕方だった。

(やばい…お母さんに怒られる!)

そう思い、全速力で駆け出した。


急いで帰る私の足は、疲れているはずなのになぜか弾んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る