第28話 どうか地獄へ 2*聖*

「大丈夫大丈夫!」


「なにが大丈夫、よ」


「だって、ほら」


 彼女が指さしたのは四月一日家。


「燃やすべきだ」


「燃やせ」


「燃やそう」


「ダメだ。俺の親父がどうなったのか忘れたのか」


 家を燃やしたい村人たちと長男が揉めている。


 全くこちらに気づいていない。


「今のうちじゃない?」


「そうね」


 見る限り、生き残った村人たち全員が四月一日家を包囲している。


 馬鹿ねえ。


 私たちにとっては好都合だけれど。


 正確に言えば、頼りにしている悪霊たち。


 一か所に集まってもらった方が襲いやすく乗っ取りやすいでしょ。


「それじゃあ二人とも、後を頼んだわよ」


「合点承知の助!」


「はい」


 二人ともウキウキが隠しきれてないわよ。


 幸恵さんが怖がるでしょう。


「よろしくお願いします」


 あら、頭を下げたわ。


 なにをするのか理解していないのかしら。


 そんなわけないわよね。


 小鳥は早速ナイフを取り出しているし。


「どうかあの人たちを地獄に落としてください」


「ふふっ」


 ごめんなさい、笑ってしまったわ。


 そうよね。


 貴女たちが受けた仕打ちを考えれば、そういう思考になるわよね。


「んじゃあ、まず燃やしてくるわ!」


「行ってらっしゃい」


 小鳥は私に満面の笑みを見せ、走っていった。


「では、私は森まで見送ってから小鳥さんに合流します」


「いいの? 小鳥と一緒に行動したいでしょう」


 小鳥の愛弟子だもの。


 今日一日師匠と狩りができなくてストレスがたまっているでしょうに。


「いいんです。どうせ後で一緒に暴れますから」


「そう。貴女がそう言うなら」


 護衛してもらいましょう。


「幸恵さん、それでは行きましょう」


「はい」


 結局、護衛は必要なかった。


 誰も私たちに気づいていないんだもの。


 森に入ってからは、至る所に血の跡。


 全く驚かない幸恵さんにこっちがびっくりよ。


 どういう人生を歩んできたのかしら。


 今度聞かせてもらいましょう。


 屋敷の周りにいる悪霊たちを視ても顔色を変えなかったし。


「音葉」


 外から呼びかければ、


「おかえりなさい!」


 元気よく私たちを出迎えた彼女。


 まだ土下座したときの服装のまま。


 後で叱ることにして、


「優はっ」


 今は幸恵さんを優先すべき。


 彼女を客間にあんないする。


 そこには、白猫のシロを抱えた優がくつろいでいた。


「ママ!」


「優っ」


 感動の再会に私はお邪魔ね。


 それじゃあ私は山を見て回りましょうか。


 みんなを信頼してはいるけれど、やっぱり自分の目で確かめないとね。


 生き残りがいないかどうか。


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