第19話 撒き餌*親*

*軽傷の親*


 突然暗くなった森。


 カラスとなにかが追いかけてくる気配を感じた。


「くっそ」


 火傷した箇所が痛むが、立ち止まっている暇はない。


 子どものためにも戻らなければ。


 はぐれてしまった二人は大丈夫だろうか。


 探す余裕はないが、村に戻れば助けを呼べる。


 カーカー。


「ん?」


 突然カラスが鳴くのをやめ、どこかへ羽ばたいていく。


 アレの気配もなくなっている。


 恐る恐る振り返った。


 アレは姿を消していた。


「今のうちに!」


 なんで消えたのか。


 アレの正体はなんなのか。


 考えることは後からできる。


 兎に角走った。


 どれほど走っただろうか。


「よし!」


 視界が開け、村が現れた。


 どうやら逃げ切れたようだ。


「はぁ……はぁ……」


 両ひざに手を当てて休憩したのは一瞬。


 再び走りだし、村長の家へと戻った。


 子どもたちは無事だろうか。


 血相を変えて帰ってきた私を周囲の村人たちがギョッとした目で見ていた。


「無事かっ」


 大火傷を負った子どもたちが寝かされている部屋のふすまを勢い良く開け、


「え」


 絶句した。


 いない。


 子どもたちが一人もいない。


「どうした!」


 慌てた様子で私を追って来た彼は、部屋の中を見て、


「おい、子どもたちは」


「こっちが聞きたい!」


 村長や村長の息子たち、村人たち総出で家中を捜索したが見つからない。


「もしかして森に」


 何故だかそんな気がした。


「どうして――」


 かいつまんで事情を説明する。


 山で正体不明の化け物を見かけたこと。


 村長の四男と若者二人とはぐれてしまったこと。


「わかった」


 村長は眉間に皺を寄せ、


「おい、男どもを集めて森へ行け」


 傍にいた村人たちに命令した。


 みんな行きたくないと考えているだろう。


 しかし、村長の命令は絶対だ。


 拒否すれば蔵に放り込まれ、気を狂わされる。


「わっ、わかりました」


 急遽集められた男衆と共に、私は再び森へと戻った。


 絶対に見つけてやるからな。


 お父ちゃんが守ってやるからな。


 待ってろ。


**

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