美少女ドキドキやわらか大作戦
列を成すその場所で並ぶこと10分程度..
彼らの手元には100円を模したパンが握られていた。
「ん!美味しいよ!!すごい美味しい!!」
彼女は顔に満面の笑みを浮かべて幸せという表情でぴょんぴょんとその場で跳ねた。
そんな彼女の様子にどこか和やかな気持ちになりつつ彼も手に握るパンへ口をつけた。
///
「100円パンおいしかった!!」
「見た目凄かった...」
「ね!!まんま百円玉だったよ!!!」
100円パン...見たい目がそのまんま100円の形をしていて、ベビーカステラのような生地に伸びの良いチーズがたっぷり入っている食べ物である。
少しばかりか流行に遅れつつ、1度食べたかった100円パンを食べれることが出来た彼女はすっかり元の調子を取り戻していた。
にこにこと微笑みながら、軽食のために1度離した彼の手を、再びぎゅっと握った。
「いきたいとこあるって...どこ?」
そう、彼は何も伝えられずに渋谷へ呼び出されていた。そろそろ教えてくれてもいいだろうと質問をした彼に、彼女は微笑みをより深めて、女性らしさがよく出た胸を大きく張った。周りの視線がいくつか彼女に集まるのを感じる。
「ん!それはね...映画館です!!」
「映画....楽しそう....」
家から近いとはいえ映画館へ行くのに渋谷集合する必要あるかな…と心に疑問自体湧いたが、渋谷自体家から近いので「そこまで変わらないか」と納得して彼女の言葉に賛同した。
「そうでしょ!ふふん」
そんな彼の心の内など知らず、彼女は誇らしげに鼻を鳴らした。すると彼女は白いポーチからチケットを2枚取り出した。
「見てください!!ここに映画のチケットが2つあります!!」
「予約...したんだ」
「もちろん!!早く行こ!!1時からだから!!」
彼らは予約しているという映画館へ向かうことにした。電車を使って。渋谷脱出である。
「これ...渋谷来る必要あった...?」
「ごめんなさい、全くなかったです...」
///
彼女が案内したのは2階にゲームセンター、1階に映画館がある複合施設であった。彼らは映画開始の30分ほど前にそこへ到着していた。
「結構時間余っちゃったね..」
「うん...」
と言っていたのが30分。
「わたし太鼓の仙人やった事ないんだよね...」
「ん、僕もないよ...」
////
「やばい!!!時間ない!いそご!!」
併合されているゲームセンターで遊ぶこと30分、気づくと時計は12:56を指していた。
焦った様子の彼女は彼の手を引いて足早に下の階へ向かった。ポップコーンやドリンクには目もくれず、小走りに歩くこと3分。まだギリギリ上映開始前、周りの視線にいたたまれなさを感じつつ自分たちの席へ向かった。休日と言うだけあって人がかなりいる。
「角の席だけど大丈夫??」
彼女は声を抑えて耳元に囁いてきた。ぞわぞわ、となんとも言えぬ感覚を感じながらも彼は頷いた。
それと同時に最近よくCMで見る恋愛ものの映画が始まった。
そんな中1人の少女は..
これからする計画について思いを馳せていた。
彼女はそれを『美少女ドキドキやわらか大作戦』と呼んでいるという...
ギリギリになって覚悟が決まらなくなってきた彼女はほんとにやろうかどうか、直前まで悩んでいた。何故かって??恥ずかしいのである。
///
ロビーは暗く、静寂が支配していた。周りからはポップコーンの甘い匂いが漂い、その場には確かな興奮の渦が沸き起こっていた。
『愛してるんだ!!!』
『私も...本当に大好き...』
物語も終盤に差し掛かり、紆余曲折あり2人がお互いの好意を告白する...1番盛り上がるシーン、周りからは鼻をすする音が聞こえる。
僕は感動という感情が湧いてこなかった。僕はいつもそうだ。一般的に恋愛映画、恋愛ドラマと呼ばれるものを見ても、心にドキドキという気持ちは現れない。恋というものがよく分からないのである。
そんな時だった。ぼーっとした顔で映画を見つめる僕の隣で、何か覚悟が決まったような表情をした彼女は、顔を真っ赤にして目をうるうるとさせながら耳元にて囁いてきた。
「ねぇ、わたし今すごいどきどきしてる...」
僕には恋というものが分からないが碧澄さんはそういうのがよく分かるんだろう...そう考えた。
すると碧澄さんはいきなり、僕の手を両手で包み込むように握ってきた。
何をするんだろう...僕は呆然とそう考えた。頬を朱に染めた碧澄さんは、覚悟を決めるかの様な表情をした後、「えいっ」と僕の手を自分の胸へと導いた。突然指先に感じる柔らかな感触に、僕は少し驚いた。だがドキドキしてるのを確かめて欲しいだけだろうと納得して彼女のされるがままとなった。
指の先から感じる柔らかな感触、布の上からでも感じるそれは碧澄さんという美少女の女の子という部分をこれでもかと主張していた。柔らかいそこから感じるのは心臓の鼓動。ドッドッドッと脈打つそこは彼女の興奮、期待を表しているかのようだった。
「んっ...ふ..ぅ.」
純白な服装で、これでもかと清楚さを醸し出す碧澄さん。そんな彼女は今、顔を真っ赤にしてぎゅっと目をつぶり、唇を固く結んで必死に手を胸へ押し付けていた。「照れています」という感情を必死に押し殺そうと頑張っているようで...そんな彼女を見た僕の心に湧いてきたのは
可愛い
僕は必死に思考を巡らせる。指先から感じる鼓動は僕の思考を急かすかのように脈打っていた。それに共鳴するかのように、恋愛映画ですら平常だった僕の心臓が速い鼓動を刻み始めた
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