362話 装甲艦、四万十。(1926照和)
もうすぐ照和になる日本。
海軍省では大勢の幹部や宮様も参加しての会議が開催されようとしていました。
それは大日本帝国海軍にとって一大方針転換な事が話会われようとしています。
『さて、これを見てください。』
と宇垣昌弘が出したのは100分の1サイズの1万トン軽巡『四万十』の模型でした。
『アメリカやイギリスを油断させる為に、あえて軽武装にしていますが、まったく新しい考えで建造されたのが、
この軽巡『四万十』です。
隣にだした同一スケールの古鷹を見ればわかるように、倍ほどに全幅が広くなっています。』
『海軍の皆様に言うまでもありませんが、日本近海は波が荒く、荒れ始めると駆逐艦や軽巡洋艦は大変に苦労します。』
『この『四万十』は同じ1万トン級の最新型の古鷹と比べても揺れが少なくなるように気を配って設計致しました。
最高速度こそ下がりますが、20〜22ノットでの巡航が可能。
航続距離は古鷹よりも上になっています。』
「「「最新型の古鷹より巡航速度が早く、
航続距離も上だと!!」」」
『はい。重油タンクスペースを大幅に増やせました。
最高速度を重視して全幅を削る設計ではこんな事はできません。』
感の鋭い海軍の幹部達は宇垣昌弘が何を言いたいのか、最初の1つがわかったようでした。
それは、これからの海軍の艦艇の設計方針の変更です。
すでに大型の正規空母は元巡洋戦艦の赤城ではなく元戦艦の加賀の船体がベースになって幅広く建造するような方針になっています。
ならば、加賀達空母を護衛する艦艇は速度は必要ありません。
そして超大な加賀の航続距離(魔力発電炉による18ノットでの巡航速度なら、航続距離は大幅に増加する事は秘中の秘であるため、ここですら公言はしない。)の事も考えると随伴する巡洋艦や駆逐艦の巡航速度や航続距離の見直しも必要になってきます。
『海軍で大演習がされた時、軽巡や駆逐艦の艦長なら残りの燃料の分量が頭の片隅から離れないはず。
重油が残り少なくなると駆逐艦の揺れも酷く揺れますしね。
ギシギシと軋む艦の感触を感じると
不安に思えてくるのでは?
歴戦の船乗りだからこそ、今の駆逐艦などの小型艦艇に不安を感じるのは当然なのです。』
駆逐艦は数も多く、乗り込んだ事のある人間は大勢います。
そんな人達は駆逐艦の航続距離の少なさを知っており、頷いています。
『最新型の1215トンの峯風ですら小さ過ぎるのです。戦闘行動する場合の航続距離は倍に増やす事を目標にしたいと思っています。2890トンの夕張型軽巡と同じ基準排水量でも少ないかもしれません。』
と、言うと驚く人もちらほら出て来ました。
ですが、夕張型は14ノットで3300海里、峯風型は14ノットで3600海里でして、航続距離は峯風型の方が長いのです。
夕張型の航続距離は少な過ぎるのです。
『さて、ここまでは前置きです。
ここからが発表なのですが、
この軽巡四万十はあえて目立たないように軽い武装にしていますが、普通の軽巡ではありません。
この四万十の防御力はほぼ前弩級戦艦の富士級戦艦と同じです。
しかも加賀級戦艦でやろうとしていた水平防御対策が考慮されており、20cm以上の砲に対する充分な防御力を持たしています。
防御力でいうなら長門級以上に防御を重視しました。
舷側装甲は至近距離からの30.5cm砲の実弾での射撃実験に耐えうる防御力を持っています。
1万トン軽巡の外見をした防御力は前弩級戦艦級の船。
それが試作艦四万十です。』
海軍の幹部達は絶句して声も出ない様子だった。
金剛級戦艦もそうだが、どの戦艦もある程度防御力は妥協している。
イギリスの巡洋戦艦だって場所によっては防御はスカスカだ。
インヴィンシヴルだってフッドだって艦尾の防御力は弱い。
至近距離から128mm砲を撃たれたら大変な事になってしまう。
舷側防御だって分厚いのは限られた場所だけの事。
砲塔から砲塔までの間の水上部分の舷側のみだ。
『皆さんもイギリスのインヴィンシヴル級巡洋戦艦の艦尾の防御は少ないのではと思われていないでしょうか?
そのとうりでして、巡洋艦以下の防御力しか持っていません。』
『どんな戦艦も防御は妥協しています。
この四万十はほとんどの場所を妥協せずに防御を充実させました。』
『この四万十は艦首も艦尾も舷側部分は20cm砲に対しての完全な防御ができています。
艦橋下部の1階と2階部分、煙突の下側の防御力も防御力も20cm砲対応防御以上です。』
『1万トンなので装甲艦と言いますが、装甲艦四万十を量産すれば、密かに戦艦を量産するのと同じです。
夜戦の時は味方を守る盾になって大活躍してくれると思います。』
『いくら、装甲が分厚くても四万十は
1万トンの軽巡にしか過ぎません。
ワシントン条約には違反はしていません。』
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