花火仁子

 星がひとつ流れたなら人が喜ぶ、そんな世界。願い事なんて無意味で叶わず消えていくのに。夜に孤独を感じたら夜のせいにできるけど、朝から孤独を感じていて、なんのせいにしたらいいのかわからなくなった。平和に生きるコツは、結局、独りだ、ということを忘れないでいること。コツをつかめば、お気に入りのあの星が流れてしまっても、さみしくないと思う。孤独と仲良くなる方法を、今、探している途中で、いつだって途中がいちばん苦しいと知った。




 雲ひとつない空、とても暑い日、私は好きな人に聞いたことがある。

「どうしたら、私、しゅうさんのいちばんになれる?」と。

 秋さんは「君がいちばんになれる日は来ないよ」と、はっきり言った。

 秋さんは、私の名前を一度も呼んでくれたことがない。

 いちばんになれないことよりも、そのことの方が、かなしかった。




 最後に夜のバスに飛び乗ったのは、私の記憶が正しければ、五年前の秋。

 それ以来、私は秋さんと会っていない。




「彼女と別れた」って言われた時、私は喜べなかった。

 なぜなら、彼女と別れたってだけで、秋さんの気持ちは、彼女に向いたままだから。

「彼女と別れたからって、私がいちばんになったわけじゃない」そう言うと秋さんは「君は賢いね」と言った。

「次はいつ来るの?」って秋さんはいつも聞いてくれたけど、その日は聞かれなかった。


 さよならの合図だった。




 それでもあの時、確かにあった幸せは、私の生きる力になっていた。

 それだからもうない幸せは、私をしにたくさせた。


 たくさんの薬をアルコールで流し込む。ふらふらとおぼつかない足で、歩道橋を一段ずつのぼる。歩道橋の上から流れる車を見下ろして、どのタイミングで落ちていけばいいのかシュミレーションした。




 ……結局、飛び降りる勇気は、なかった。




 あれから五年が経ち、懲りずに生きていて、懲りずに恋をしている、私。

 世間一般の可愛いになれなくて、落ち込んだりしている。

 あの時、勇気を出さなくてよかったなとつくづく思う。


 私の名前をたくさん呼んでくれる人。

 いちばんになりたいなんて言わない。

 最終的に私の元へ帰ってきてくれたら、なにをしたっていい。

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花火仁子 @hnb_niko

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