カミキリびより

木目ソウ

第1話

 そのカラスは、虚無より生まれおち、右も左もわからぬままに、人肉をむさぼろうと翼をはためかせた。


 町には子どもがすんでいた。

 彼らは皆、夜をしらない。

 太陽はいつまでもしずまず、夕刻で時がとまっている。

 だから、月のかたちや、星のかがやきをしらなかった。


 町の周りは、霧がただよう、おおきな山にかこまれている。

 山には、牙をもつ、危険な獣がひそんでいて、子どもたちをとらえる機会をうかがっている。

 そして、山の奥深くには、巨大なカラスがすんでいた。


 夜をしらない子どもたちは、いかにして一日の終わりを悟るのか。

 それは、日の終わりに訪れる、巨大カラスの影をみることで、把握するのである。

 カラスは毎日、獲物をもとめて、かならず、町にやってくる。

 カラスは、子どもの首を噛みきり、頭をくわえて、夕陽のほうへきえてゆく。

 だれがいいだしたのかは不明だが、いつしかカラスは「カミキリカラス」とよばれるようになった。

 名前は影のように、町のいたるところについてまわった。

 

 これは、この町にすむ少女「ヒミコ」の物語である。

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