僕、犬です。
七海たると
第1話 はじめまして。犬です。
僕はシー・ズーと呼ばれる種類の犬です。ふわふわの毛が自慢なんだ。
三重県で生まれて、はるばる静岡県のお店に来たんだ。
兄弟は僕を入れて4匹だったんだけど、みんなはどこに行ったのかわからないんだ。
お母さんは僕を産んだ時11歳で、きっと僕たちが最後の子だったと思う。
でも、僕たちすぐお母さんから離されちゃったんだ。もう会えない。
角部屋のトイレトレーが一つぎりぎり入るぐらいの狭い小さな小さな部屋
お水とご飯は1日3回時間制。朝と夜、お姉さんがお掃除を毎日してくれる。
これが僕のお部屋。毎日お世話をしてくれるお姉さんはとっても優しくてブラッシングとかしてくれるけど、たまに悲しそう。
僕のお部屋の前をいろんな人が通るけど、
「大きくなっちゃったねぇ・・・。」「大きいね、この子。」
お部屋はガラスで仕切られてるけど、ハッキリ聞こえる声。
僕はそんな声を聞くようになってから気づいてしまったんだ。
(あぁ・・・そっか。僕はいわゆる売れ残りっていうものなんだ。)
気づいたところで僕にはどうしようもできないんだ。この狭いお部屋が僕の居場所。
今日も毎日変わらず同じことの繰り返しだと思ったんだ。
毎日同じことの繰り返しで飽き飽きした僕は窓ガラスの方を見たくなかったんだ。
どうせまた「大きい」とか「かわいそうに」って悲しい言葉を投げられると思ったから。
おしりを向けて座っていたんだ。そんな不貞腐れていた僕。
今日この日、僕の犬生が変わった。
「えっ!やだ、この子すごい大きくて好みな子!でも男の子かぁでもかわいいなあ」
40代ぐらいと20代ぐらいの女の人2人が僕の部屋の前でうろうろしている。
でもこの人も「大きい」って言ったな。どうせ僕はこの部屋から出られないんだろうなあ。しばらくして僕の部屋の前から離れていった気配がした。
その後も何回も僕の部屋の前に来たり離れたりした気配がしたけど、僕は一度もその人たちの顔を見なかったんだ。通りすがる人間達と同じだと思ったから、かわいそうって憐れむ人間なんかに顔を見せてやるもんかってちょっと意地張ってたんだ。
そんな時「この子買いたいんですけど契約お願いできますか?」って聞こえたんだ。
また仲間がここから卒業していくんだなって思っていたら、僕の部屋の窓ガラスが開いた。
「購入はありがたいんですが、お姉さんすごく迷ってましたよね?お顔見なくてきめちゃって大丈夫ですか?とりあえず抱っこしてみますか?」なんて声が聞こえる。
僕、抱っこされるの?この女の人に?
「あ、そういえば抱っこも顔も見てませんでしたね!でも私、この大きさが好きなんです。もともと女の子のシー・ズーがいたら飼おうかなって考えてたんですけどこの大きさに惚れちゃって。今後のお金のことも考えて大丈夫だと思ったんで決めました。」
僕、おうちにいけるの?広いお部屋にいけるの?
「うちには猫2匹と犬1匹いるからにぎやかだよ~。うちの子になってくれるかな~。」40代ぐらいの女の人も声をかけてくれる。
この人は20代ぐらいのお姉さんのお母さんみたい。
お母さんも、ニコニコこっちをみてる。すごい撫でまわしてくる。
その後、僕はお部屋にまた戻されて、お世話をしてくれるお姉さん達と3人でなんだか話を長いことしている。
僕もやっと卒業っていうのができるのかな?
お話が終わったのか、お世話係のお姉さんがお部屋からまた出してくれた。
僕を買うって言ったお姉さんに抱っこさせて、
「それじゃあ元気でね。いいお家に行けて本当によかったね。」
後ろにいたご飯とか売ってるお姉さんたちもみんなして僕を囲んで声をかけてくれた。
「また是非ごはんとか買いに来ますね!長いことこの子の面倒みてくれてありがとうございました!今度は私が可愛がります!」
そのままお姉さんに抱っこされて僕はお店の外に出た。
11月の寒い空気、お姉さんが寒いといけないからって服を僕にかけてくれた。
僕が親兄弟と別れてあの小さなお部屋にくるまで小さな箱に入れられて移動だったから、初めてお外の景色をまともみた。
お外には今まで見たことないような、いろんな音や人間、景色があった。
「これから車に乗ってお家に帰るからね、君の名前は何にしようね?」
車?名前?何だろう?
僕は初めてのことが多すぎて緊張して固まってることしかできなかった。
これから僕はどうなってしまうんだろうか。
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