第9話 「飲食店、バンザイ!」「飲食店、バンザイ!」こういう店を、応援したい。あきらめたら試合終了ですよって、アンザイ先生も言っていた。

 「ねえ、マスター?」

 「…はい」

 「学校の先生の言うことを信じちゃいけないっていうこと、だね」

 「はい」

 「ああ、俺、小学生のときに、そう教えられたんだっけ。学校の先生のレベル、残念だよな。あきらめるしか、ないのかな?」

 「それは、いけません」

 「どうして、マスター?」

 「あきらめたら試合終了ですよって、アンザイ先生が、たぷたぷ、言っていたからですよ」

 「?」

 「ふふふ…」

 「そういえば、マスター?」

 「何でしょう?」

 「青の色って、どんな意味なの?」

 「青は、説がありすぎです。良く、わからないのです」

 クルクル回る、床屋の3色ポールの正しい意味を知ることができて、成長した気分だった。

 「動脈、静脈、包帯」

 それは、ちがったのか!

 包帯だけは、合っていたっぽいけれど。

 マスターが、いくつかミカンを、出してくれた。

 「おお…。ミカンの皮むきは、子どもの頃から、大好きだ。ミカンの実につくこの、白い綿のような部分を、きれいに、全部取り除くのが、良いんだよね。床屋の、ひげ剃りっぽく。きれいにさ」

 そこまで言うと、マスターから、待ったの声がかけられた。

 「…それ、とらないで食べた方が、良いんですよ?」

 「え?」

 「…そこは、アルベドといいます。栄養満点」

 「そうなの?」

 「食べたほうが、良いのです」

 みかんも酒も、床屋もできる飲食店も、がんばっているんだ!

 「マスターの話は、勉強になるねえ」

 「ミカンの実についている白い綿のようなものは、アルベドといいます」

 アルベドには、たくさんの栄養が、含まれるそうだ。

 「そうだったのか、マスター!白い綿は、食べたほうが良かったのか。あれって、なんだか、実を邪魔しているようで、自然と、取り除きたくなっちゃうんだよな。それがまさか、ミカンの、大いなる栄養源だったなんてな」

 うんちく、飲食店。

 「それでは、お客様?」

 「何すか?」

 「このイスに、ゆっくりと、腰掛けてみてください」

 「…こ、こう?」

 深々と、腰を下ろす。

 「ありがとうございいます」

 フンワカとした、白いイスに、身を委ねていた。

 気持ちが良すぎて、良すぎて…。

 動けなくなる感覚を、覚えていた。

 「ははは…。アルベドっていうやつに包まれる、ミカンの実になったような気分かもしれないな」

 「…さあ、参りましょうか!」

 「何だと?」

 マスターが、オーケストラの指揮者のごとく、手を振り上げた。2人だけの聖域が、犯されていく!

 「パラッパラッパー!」

 「なつかしいなあ」

 「…お客様?」

 「え?」

 「私の、勝ちです!」

 「何だって?」

 「お客様は今、白のふかふかに包まれて、動けなくなっています!」

 「何?」

 その通り、だった…。

 身体が、いうことをきかず。

 「おい、マスター?」

 「…」

 「あのカクテルに、何か、入れたな?」

 「…」

 「何とか言ったら、どうなんだ!」

 「…ひげそりタイムの、はじまりです!」

 「何だって?」

 「…私、理容の免許を、もっていましてねえ」

 「あ、そうだったな!」

 「…お前は、絶対に、動けない!キシベロハンも、動けない!」

 「…」

 「…お前は、他人のテリトリーに入ったなら、おとなしくするように教育された世代だよな?」

 「テリトリーか…」

 「そうだ」

 「ユウユウハクショみたいなことを、言いやがって」

 「…お前は、動けない!」

 「くそう」

 「あの、カクテルたち…。良くやった」

 「…うう」

 「俺のかわいい、ファンネルたちよ!」

 「…」

 「これで、顔も、きれいになるだろう」

 「バンザイ!」

「飲食店、バンザイ!」

 「飲食店、バンザイ!」

 こういう店、応援したいなあ。





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