イージーモードにしてもらったはずがちっともイージーっぽくないのでどないしたろ?
紫楼
プロローグ いち
あ、死んだ。
いざとなるとあっけないもんだ。
通り魔が暴れて迫って来て「ヤバ!」って思ったら近くにいたヤンキーが私を引っ張って通り魔にぶん投げて「はぁ!?」って振り返ったら、それまでも騒ついて叫んでた連中が物凄い悲鳴あげたと思ったら上から鉄筋が降って来て通り魔モロともってな。
いや、通り魔も死んだかどうかは知らんけど。
思えば私の人生暗かったってやつや。
アル中ギャンブル狂の父親、ネグレクトしてるくせに思い出したかのようにDVしてくる母親、そんな親だからか血筋か中学の頃から悪い連中と連んで暴走族もどきの兄。
アニメみたいな底辺家族。
何がキツいって名前だ。
私の名前は綺羅輝羅凛。
きらきらりんって呪文か?
魔法少女が変身するのか?
メロメロリンと悩んだとかどっちもそう変わらへんわ。可愛い顔ならまだしもお前ら自分の顔確認してみろ。きらきらしい子供ができるわけ無いやろが。どっちが濃く出ても不細工だからな。
ちなみに兄貴は疾風迅雷。
しっぷうじんらい、そのままの読み方ね。
こっちもまぁまぁなブスやからな。人を罵倒しとったけどそう変わらへんわ。
兄貴が暴れて由来を聞いたら苗字が〈一木〉って簡単だから名前だけでも字数あったほうがいいっしょ!かっこいいっしょ!ってさ。
幼稚園の提出物や道具や衣服にネーム書きするのにブチ切れて、漢字で書く物とかは自分で書けやって殴って来たよ。
切ないことに私の容姿は全くキラキラしくない。逆にブスブス凛とかあだ名付けられたりもした。
髪もボサボサ、服も清潔とは言い難く、口数も少ない私に友達なんてできるはずの無く。
親は外面だけは最高に良かったから児童相談所が来ても問題にならなかった。
小学生くらいから兄貴にも蹴られ殴られ、根性焼き入れられて。
その頃母が死産して、女の子だったので芽露瑪璐麟として葬られた。
どんだけ気に入ってってん!
母もアル中になってたし父が母を蹴るところも見るようになっていたのでこんな家に生まれずに良かったねと言う気持ちと出産まで生き残ったのにって複雑な思いだった。
中学生の時には兄貴の連れに「ブスすぎて美人局どころかウリにも使えねぇ」とか言われた。何赤の他人で金作ろうと思ってんねん!
最低な人生だけど性的な虐待がなかったことだけは幸い。
穴があればなんでもいい奴らじゃなくて良かった。
そんな日々の中、自転車が突っ込んできたり、車に当てられたりするものの大きな怪我が無くて「トロトロしてんじゃねぇ」「テメエが避けろや」って逆ギレで逃げられるのも日常の一コマ。
擦り傷や打撲が絶えない私を両親は自分たちの暴力がバレるのを恐れて病院には連れて行かず。
そういうものだと思ってた私は特に行動を起こすこともなかった。
悪運だけは強いのか死ぬこともなく結構休みまくったものの中学を卒業。
教師は進路相談で一応話し合いをしたけど、休みがちで内申が悪くやる気がない(と思われてる)生徒に対して親身になるわけもなく。面倒やし、いずれ家を出たろう思ってるのに、親に何か言われても困るから父の田舎で家業を手伝うと嘘言ったらあからさまにホッとされた。
高校には行くべきだとは思っていたけど金出すわけないし、内申悪いし、行けるわけあらへんやろ。
年齢が上がるに連れて暴力に遠慮が無くなってきて、家に残れば殺されると思って就職すると言い、家を出た。
「仕送りすれや」
と言われたものの無視して逃げた。
中卒の身元保証がない私にまともな職がみつるはずはなく。必死に親も親族に頼れないからと給料は安いけど住み込みで働ける場所を探して。通信で高卒認定を取った。
年配の同僚ができて美醜だけで爪弾きなるることは減ったけど、根掘り葉掘り聞かれたりで、少し親のことを言えば、「血の繋がりは大事よ~大人になったんだから折れてあげて」「親も歳を取れば変わるわ」って、そんなことを言う人は大体子供に疎遠にされてた。
トラブルはちょこちょこあって。
すぐ近くの寮に行き来するだけで頻繁に事故に遭って。休みがちな私の給料はどんどん下がった。でも雇ってくれるだけでありがたかった。
最低賃金でブラック気味だったその会社は税金も誤魔化してたらしい。
少し時間と懐に余裕が出来たころ、念願の改名手続きをした。
面接のたびに、名乗るたびに、哀れみや嘲りを感じていたから通名で過ごして改名に有利になるようにしてきた。
一木りん。
親の付けた名前を完全に無くしたい気持ちもあったけど顔も見れなかった妹と〈りん〉だけがお揃いなのを思い出して。私だけは妹を覚えていたくて。苗字は裁判にかける時間や手間を考えて諦めた。
兄貴が金寄越せとやって来たこともあったけど転々としてる間に追えなくなったのか来なくなった。
身なりの清潔さは多少気にするようになって肌のケアとメイクをするようになったらマシになった。
百均コスメでもわりとどうにかなるもんやね。
人生初の彼氏が出来かけたけど男のイメージが〈暴力〉〈ギャンブル〉〈アル中〉なので断った。
またも会社が倒産して寮を追い出された。
いくどかアルバイトを掛け持ちしつつ転々としていた私は、またブラックな会社就職した。
でも寮があって賄いがあればいい。
一生こんな暮らしかと思えば気が滅入るけど、結婚もあり得そうにないし、保証人がいないって言うのは何をするにもしんどい。
年金がもらえるまで頑張るしかない。
贅沢は出来なかったのでゲーム課金とかライブ行くとか旅行、カフェ巡りなどの趣味を持てなくって、主に会社へ欠勤連絡や職探しにために持つようになったスマホのネットアプリで漫画や小説のファンタジー世界に浸るときだけが幸せだった。恋愛は自分の現実との差にしょっぱい気持ちになるからあんまり読まなかった。
三度の倒産退職を体験して私は38歳になった。
生傷は絶えないけど大病せずここまで生きて来た。無意味な日々、とっとと死ねたらと思いつつ自死だけは生きれなかった妹に申し訳なくて出来なかった。
その日は滅多にない定時帰りでアプリ小説読みまくるぜぇってご機嫌に歩いていたら前方から叫び声が聞こえて。
また暴走車か?っと身構えたらナイフを振り回して大声で叫んでる男と逃げ惑う人、血を流して倒れてる母娘、血まみれスーツのおじさんとドラマでも撮影してるのかと言う非日常な光景。
周りも撮影?なんて騒いでて、スマホを出して近寄ろうとしてるヤンキーまでいて。
だけど明らかに血の匂いが漂ってるのに気がついて叫ぶもんだから通り魔がこっちにロックオン。
そして走り出した通り魔がヤンキースマホ男に迫った瞬間に私の襟がグイッと引っ張られて、通り魔に向かって投げられた。
「はぁ!?」
「「「「キャァッッアアアアアア!!」」」」
「なんてことを!!!」
景色がスローモーションになって周りの音が雑音になって私の視界が空と迫ってくる鉄筋?でいっぱいになったとき、「「「「「危ない!!」」」」」って鮮明に聞こえて。
背中が切られて熱くなって「ド、ガガーシャァーーン!!」て言う聞き慣れた交通事故みたいな衝撃と音が響いて私の意識は途切れた。
不幸自慢になった?
もっと聞きたい?まだまだ不幸じゃないって?
でもな、細部まで話すんは面倒なんよ。
それにしても通り魔はひゃっぺん死ね。あのスマホ男はごひゃっぺん死ね。
あれ?どっちが罪深いんだ??
私のムカつき度はスマホ男が上や。
でも通り魔は他に被害者出しとるね。世間的に通り魔がギルティやな。
鉄筋落とした建築会社にも振り分けいるか?
ともかくやっと死ねた。
死は私にとって開放。
待ち望んだものだ。
だけどあんな自己中どもに無闇に殺される筋合いはなかったはず。
神も仏もあるものか。
クソッタレな人生にさようなら。
願わくば二度と生まれ変わりませんように。
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