Vtuberデビューした幼なじみから通話が掛かってくる話

テルヒト

第1話 この通話はバイノーラルマイクを使用しています


//SE 通知音


「やっほー。聞こえるー?


んー?

誰だ? じゃないよ。わたし、わたし」


「あー?

〝わたし〟なんて名前の知り合いはいない?

なんていうか、ベタなボケだねえ。

わたしだよ。わたし。沙奈。きみの幼なじみの茅花沙奈」


「いや、特に用ってわけじゃないんだけどさ、

最近、話せてなかったでしょ?

だから、きみとちょっと話したいなと思ってさ」


「え? 先週?

二人でラーメン食べに行ったのって先週だったっけ?

そういえばそうだ。

あそこおいしかったね。また行こうよ。

ん。約束」


「でもさ、このところ、お互い忙しかったでしょ?

ねー。この何ヶ月かだと、こうして話すのも数えられるくらいだし、

会って話したのなんて、もっと少ないもん」


「ところで、今、この通話なにで聞いてる?

スピーカー? イヤホン? ヘッドホン?

もし、スピーカーで聞いてたら、イヤホンかヘッドホンに変えられる?

ちょっと待つから」



「大丈夫?


//改まった丁寧な口調で

この通話は、バイノーラルマイクを使っています。


ふふっ。


//左右から交互に

エー エス エム アール

こっちが右耳。

こっちが左耳。

ふふふ。合ってる?


きみ、好きだって言ってたでしょ?

わたしも好き。

耳がぞわぞわするのが心地よくて、聞いてると気分が安らいで、

//耳元に近づく

こうすると、本当に耳元で囁いてるみたいに聞こえる。

わたし、きみの近くにいるかな。


きみの目の前に、きみに触れられる距離に、

//両耳を軽く押さえてから離す

わたしはいるの。

そう思って聞いてくれたら、

わたしがすぐそばにいるって思ってくれたら、

わたしを近くに感じてくれたら、嬉しいな。

……なんてね」



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