第2話 輪廻転生の理2
ギラギラと光っていた男の眼が急ににごり始めた。
「死んだ? このオレが?」
少しだけ余裕を取り戻した雪井は、さらに男のささくれ立った心に染み込ませるように続けた。
「そうです。あなたは昨夜未明、大雨のさなか道路をふらふらと歩いているところを、トラックに轢かれ、即死しています」
「あぁ……そういや、そうだったかもな」
男はそれっきり口を閉ざし、不安そうな視線をあたりに向けた。
どうやら死んだ瞬間と、この今現在の置かれている場所との持続性が認識できずに錯乱し、大暴れしていたらしい。
死んでしまったときの衝撃の大きさによっては、本来は繋がっているはずの記憶がブツンと切断されたまま、訳も分からずここにたどり着く。というのは以前に配属された最初のときに聞いたことがあった。
「説明を続けてもいいですか」
「……ああ」
昼はすでに五分も過ぎている。
後方で鳴り続けていた電話はぴたりと止み、職員たちはすでに誰もいない。
照明も半分が落とされ、あたりはひっそりと静まりかえっていた。
男がさらに冷静になってきたのを見届けて、雪井は言った。
「簡単にお伝えすると、ここは亡くなった方が集まり、そして次のステージに立つための選択をしていただく場所です」
「次のステージだぁ? 死んだらあの世に行くんじゃねえのかよ」
「あの世、という世界がないわけではありませんが、今はまだ貴方に行く資格は与えられていないようです。つまり、貴方は正式にはまだ死んではいません」
「死んでいない? ……けっ、うそつくんじゃねえや」
男は目を見開いて雪井に食ってかかろうとするが、瞳の奥から不安そうな感情が這い出してきているような雰囲気だった。
この男もまた、生きていた世界で後悔を遺してきたのだと、雪井は思った。
男が反論をしないことを確認してから、さらに続ける。
「今の貴方には以下の選択権が与えられています」
【松澤 卓郎 二十六歳】
出身地・・・○△□
住 所・・・○△□
家 族・・・○△□
筋力値・・・○△□
明晰値・・・○△□
運 値・・・○△□
~中略~
天命値・・・○△□
転生値・・・008
Re値・・・035
「この一覧の中で注目していただきたい場所が、転生値とRe値という項目があります。この項目の数字に合わせた内容で、転生、あるいはRe――松澤さんの場合はリターン――ですので現世を戻っていただいて、いちからやり直していただくことが可能です」
端的な説明では不十分だったのか、唖然としたような表情で自分自身の本当の戸籍情報をしげしげと見つめている。
「これってオレの……?」
「はい。あなたの表の戸籍には通常出てこないステータスも含めた、戸籍情報です」
松澤というやさぐれた男の瞳の奥で、なにかがチカッと光ったように雪井は感じた。
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