第6話 両手に花? 前後に理性

「汐音って全裸?」


「うん。変態」


 抱き枕ちゃん(大人バージョン)に聞くと、泣きながら答えてくれた。


 汐音は俺の布団の中でモゾモゾしている。


(なにしてんだよ)


 ツッコミ待ちな気がするから無視をする。


「汐音がごめんな」


「あの子やだ。触り方がエッチすぎる」


 抱き枕ちゃんが自分の胸を両手で抱き込むようにしながら言う。


「汐音自体はいい子だってわかる?」


「それは……まぁわかるけど。でも、いや」


 抱き枕ちゃんがぷいっとそっぽを向いてしまった。


「どうした? 可愛すぎるぞ?」


「なにを言ったって、私を見捨てた令字も嫌い」


 抱き枕ちゃんがジト目で睨んできた。


「見た目と精神年齢のギャップがすごいな。汐音の気持ちが少しわかる」


 これは確かにいじめたくなる。


「令字も結局私の身体にしか興味ないんだ……」


「抱き枕って言ってるから説得力ないだろうけど、そうでもないぞ?」


「そんな事言って、あの子がしたような事をしたいんでしょ?」


「汐音がなにをしたのかは知らないけど、されたいの?」


 俺としては血を提供する代わりに安眠をくれればそれでいい。


 だから抱き枕ちゃんに何かする事はない。


「令字も男の子だから私みたいな美女が居たら我慢できないんじゃない?」


「誘ってんなら乗ってやるけど、その時は汐音も一緒にやらせるからな」


「……私は令字だけの抱き枕になる」


 実際、そういう事をしろと言われても俺にはできる自信はない。


 汐音がああいう性格だから、誘ってくる事が多々ある。


 だけどそういう時は冗談にして流している。


「令字さんって女の子に興味ないの?」


 いつの間にか落ち着いていた汐音が毛布を身体に巻き付けながら聞いてきた。


「実はそっち系?」


「いや、ノーマルだけど?」


「自分で言うけど、私ってか可愛いじゃん? 抱き枕ちゃんだって美女だし。そんな二人が居て、何かしていいよって言ってるのに何もしないから、実はそっちなのかと」


 据え膳食わぬはなんとやらとは言うが、後先考えないで行動する事が俺にはできない。


「正直に言うなら、俺だって男なんだからそういう事をしたいって気持ちはあるよ?」


「じゃあしようよ」


「しないだろ。汐音の事が好きだからこそ、そういう事は勢いでしたくないんだよ」


「……照れるじゃんか」


 汐音がまた毛布を被ってしまった。


「お前はいつまで隠れてんだ」


「あの子、怖い」


 抱き枕ちゃんは汐音が喋りだしたのと同時に俺の後ろに隠れた。


「あの子普通に自分が可愛いって言うんだね」


「実際かわいいしな。学校とかバイトでずっと言われてるんだろ」


「令字はあの子のどんなところが好きなの?」


わきまえてるところかな。グイグイくるけど、俺が嫌がる事は絶対にしないんだよ」


 汐音は俺に色んな方法で迫ってはくるが、無理やり俺に何かをする事はない。


 それを俺が嫌いなのがわかっているから。


「だって令字さんに嫌われたくないもん」


 汐音が毛布で口元だけを隠しながら言う。


「俺は多分、汐音を嫌う事はないよ。汐音みたいにかわいい子に迫られて嫌がる男はそうそういないから」


 俺がそう言うと、また汐音が毛布を被った。


「惚気か?」


「事実だよ」


「つまり令字はあの子が自分の布団にマーキングしてるのは嫌ではなく嬉しいと?」


「汐音はさ、たまにああいう事をするんだよ」


 俺は立ち上がりながらそう言う。


「だからそういう時の為にもう一セット布団があるんだよ」


 俺はクローゼットを開けて新しい布団を取り出した。


「令字さん酷いから、私の匂いの付いた布団は干すまで使ってくれないんだよ?」


「使えないだろ。現役JKが全裸で転がり回った布団使ったら捕まるかもしれないだろ」


 さすがに捕まるは大袈裟だが、事件の香りはする。


 いくら汐音が自分からやった事とはいえ、俺が全部悪い事になるのは明白だ。


「痴女に好かれて可哀想」


「でも、そこも含めて可愛いし」


「令字は令字で変態だから相性いいのか」


 確かに汐音のマーキング行為は、大抵の男が興奮するだろうが、嫌悪を抱く人がいてもおかしくない。


「可愛いに勝るものなしって事だよ」


「顔が良ければ誰でも許すの?」


「令字さんの言うか可愛いって、顔じゃないよ?」


 汐音の発言に興味はあるけど、恐怖心もある抱き枕ちゃんが俺に隠れながら「と言うと?」と汐音に聞く。


「確かに顔もあるんだけど、それは後付けなんだよ。好きな人の事ってフィルターかかって見えるでしょ?」


 汐音が抱き枕ちゃんに聞くが、よくわからないようだ。


「吸血鬼にはない感情なのかな? まぁ人間って、好きな相手はよりかっこよく、よりかわいく見えるんだよ。令字さんも例外なくね」


「つまり?」


「まず最初に、令字さんは人に一切の興味がないのね。だから初めて会った相手をかわいいって思う事は絶対にないの。そもそも顔を見てないから」


「ふむふむ」


 抱き枕ちゃんが何故か興味津々なようで、俺の影で前のめりになって聞いている。


(当てんな)


 抱き枕ちゃんの柔らかな感触が俺の背中全体を覆う。


「つまりね、令字さんの言うかわいいって、話が合って、令字さんの中でいい人判定された相手って事なの」


「という事は、令字は顔ではなく性格やらでかわいいを決めてるという事か?」


「そう、それで最初のね。性格を好きになったら、必然的にフィルターがかかって顔もかわいいって事になるの」


「だから後付けか」


 俺の話なのに何故か俺は聞き専になっていたが、汐音の言ってる事は合っている。


 顔が良くても性格が悪い奴なんて山ほどいる。


 だから俺は第一印象で相手を判断したくない。


 どうせ裏切られるのだから。


「な・の・で」


 汐音が毛布にくるまりながら俺と抱き枕ちゃんに近寄る。


 抱き枕ちゃんは両手で俺の服を掴んで怯えている。


「二人の馴れ初めを聞こうか」


 汐音が笑ってない笑顔を俺達に向けながら言う。


「俺を起こしたこいつにキレて抱き枕にした」


 俺は抱き枕ちゃんを指さしながら言う。


「寝てる令字さんを起こすなんて……ご愁傷さまでした」


「あれも怖かった……」


「吸血鬼を怖がらせるなんて、さすが令字さん」


「お前が言うな」


 俺は汐音に軽くデコピンをした。


 そうしたら汐音が「パワハラだ。責任取って」と言ってきた。


 セクハラをしてる奴がなにを言っているのか。


「それよりも、私が聞きたいのはその後だよ」


「確か、可愛いロリが居るってなって、色々話してから血をあげた」


 さすがに話した内容までは覚えていないが、それでほとんど合ってるはずだ。


「ふーん」


 どうやら汐音の怒りに触れたようだ。


 目が怖い。


 抱き枕ちゃんは俺にピッタリくっついて震えている。


「抱き枕ちゃんの事を初めて見た時に可愛いって思ったんだ」


「正確には思ってない。思ったらロリコン判定されると思って」


「つまり思ったのね」


「思ってるな」


 確かにあの時俺は抱き枕ちゃんを可愛いと思った。


 初対面のはずなのに。


「私の事はなんとも思わなかったのに?」


「それは状況が違いすぎるだろ。汐音とはバイトの新人としてで、抱き枕ちゃんは隣で抱きついてたんだぞ?」


 さすがに隣で抱きつかれてたら顔を見る。


「それに汐音だって小さい子を可愛いって思うだろ?」


「令字さんは思わないでしょ?」


「子供嫌いだからな」


 静かな子は好きだ。


 だけど基本的に子供は苦手な部類に入る。


「いいもんだ。令字さんいじめるから」


 汐音はそう言って毛布を取り払った。


 そして汐音の一糸まとわぬ姿……ではなく、水色の下着をまとった姿が現れた。


「全裸で入ったら前に怒られたからね」


「抱き枕ちゃんを襲ってた時は全裸だったんだろ?」


「自分を抑えきれなかった」


 何かかっこいい事を言っているが、要はエロい体つきの抱き枕ちゃんを相手に理性を保てなかっただけだ。


「まぁそんな事はいいんだよ。今日はもう令字さんをいじめるって決めたから」


 汐音はそう言って俺に這い寄ってくる。


 いつもは逃げるが、今は後ろに震える抱き枕ちゃんがいるから逃げられない。


「反応してるよ」


 汐音が俺の足の間に自分の左足を入れて、耳元でそう囁いた。


「やめてね」


「やめない。はむっ」


 今度は囁いた後に俺の耳をみだした。


「反応大きくなったね。これは抱き枕ちゃんに胸を押し付けられてるから? それとも私かな?」


(どっちもだよ……)


 俺だって男なのだから背中に柔らかい感触を感じたり、前から可愛い美少女が下着姿で迫ってきたら反応してしまう。


 こればっかりはどうしようも出来ない。


「不快か?」


「何言ってんの? 嬉しいに決まってるじゃん」


 汐音が俺の頬を左手で撫でながら囁く。


(まじで朝までコースかよ……)


 こうなった汐音はさっきのように力尽きるまでやめない。


 俺が押し倒して無理やり止める事もできるが、その場合、俺が理性を抑えられるか心配で出来ない。


 今我慢してるので精一杯なのに、自分から押し倒したりしたら、多分無理だ。


 なので俺は汐音にされるがままになった。


 それから俺は深夜の二時まで汐音にいじめられていた。

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