第7話

「見事だわジェシカ」


「ありがとうございますお嬢様。先程の技はいわゆるカウンター技なのですが、花瓶の破片が飛び散るのも芸がないと思いまして、二つにしてみました」


「こんなことできるのは貴女だけよ。誇らしいわ」


「えへへ、お褒めに預かり光栄です」



リリィが微笑みかけると、ジェシカは顔を紅潮させながら『お嬢様のお言葉、身に染みます』と頭を下げた。ただ、ジェシカに気絶させられた経験があるマグーマは彼女をあんな風に大人しくできるリリィに戦慄する。



(リリィ・プラチナム……我が国最強の女騎士ジェシカを従える才能……クソ! どこまでも才能の差を見せつけやがって! だが、この俺が王太子に戻ればどうとでもできる!)



恐怖で震えていたマグーマだったが、リリィも対する劣等感を思い出して怖気づいている場合じゃないと思いなおした。



「リリィよ、なんのようだ! 俺は今日ここで、」


「お嬢様になんと無礼な口の聞き方と態度だな! 切って捨ててやろうか!?」


「……な、なんのようでしょうかリリィ嬢。俺は今日から王太子に戻っ、」


「戻れませんよ? トライセラ殿下が何を言おうとも」


「……な、なんだって?」


「王太子譲渡の手続きと王位継承権の復活手続きをなさりましたか?」


「…………は? え!?」



マグーマは、リリィの言葉の意味を理解できずに、あたふたした。だが、直感的にそれが自分に都合の悪い内容だとは感じていた。正直、聞きたくもなければ知りたくはないが、ここで逃げるとなると自分の立場が悪くなるだけだから逃げる訳にはいかないと思いとどまった。元々、立場が悪いというのに。



「く、詳しく話を聞こうじゃないか。俺は逃げも隠れもせん」


「そうですか。それはよい心がけです。それではマグーマ様が王太子になれない理由と必要な手続きと必要な条件を説明しましょう」



それから元王太子と公爵令嬢の問答が始まった。





……………………。


……………………。


……………………。


……………………。


……………………。



「……何かご質問はありますか?」


「…………え~と」



リィは淡々と説明を続けると、マグーマは顔を青ざめ、うつむいた。そして、そのままの姿勢で答えた。



「…………さっき言ったことは取り消してくれ。お、王太子に戻るとかは悪い冗談のつもりだったんだ。も、もうそろそろ帰ってもいいかな…………?」



先ほどと違ってあまりにも力がこもっていない言葉だった。トライセラが何を言おうともマグーマが有利になれる要素が無いことに気付き、やっぱり自分の方が危うくなったことに気付いたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る