第3話

「わ、私が、失脚した兄マグーマに代わって王太子になって……貴女が私の婚約者になってから……王太子教育が課せられるようになり仕事も増えて、私の負担が大幅に増えた! 新たに始まった王太子としての課題のせいで、私の生活が極端に一変した……前より過酷なものになったんだ!」


「まあ……それはそうでしょうが……」


「次期国王というプレッシャー、厳しい王太子教育、群がってくる貴族の令嬢令息との対応、更に兄が溜め込んでいた仕事まで! 生徒会長としての仕事に王族の仕事が増えて、私の生活時間のすべてが仕事になった! 全部がだ! 兄が王太子だった頃から大変だったのに、私が王太子になったら更に酷くなるなんて……ふざけるな!」



トライセラは声を荒らげて叫んだ。普段の印象にない悲痛な姿から、その気持ちが本物であると誰もが思った。



「こ、国王陛下や王妃様は支えてくださらなかったのですか?」


「父上も母上も、私ならできるだとか言って手伝ってくれない! 挙句の果ては十歳になったばかりの弟を押し付けて、視察という口実で隣国に旅行中だ! 腹心の部下たちと一緒に! 残った家臣たちも、お二人の仕事で手一杯だとか言って私を支えてくれるのは、ごく僅かなんだ! 兄上の尻拭いがまだ完遂していないのに!」


「そ、そうでしたか……っえ、旅行中!?」


「「「「「っっ!!??」」」」」



確かに、ツインローズ王国の国王と王妃は隣国に視察に行っている。前の王太子だったマグーマのせいで王宮にまだ仕事が山のように残っていたのに、国王夫妻が他国に行くのはどうかと誰もが心配していた。


だが、たった今、王太子の口から『視察は口実で旅行中』という言葉が出てしまった。



「そうだ! 父上も母上も、『私達はもう年寄りだから面倒事はお前に任せて温泉に浸かってくる』だなんて無責任なことを言って……押し付けて行ってしまったんだ! 息子たちをおいて……」



そして更に、実は国王夫妻が温泉に行ったことまでトライセラは口にしてしまった。悔しさに顔を歪めながら。



「息子に面倒事ばかり押し付けて自分たちは温泉だなんて……理不尽だ!」


「「「「「…………」」」」」


「なぜ、なぜ、なぜ、私ばかりが寝る間も惜しんで多くの仕事を押し付けられなければいけないんだ! どうして助けてくれる人がいないんだ!」


「…………」



悲痛な叫びを放つトライセラの目には、涙すら浮かんでいた。そして涙は頬を伝う。その姿はとても演技には見えない。



「私も王妃教育は終えている身なので、言ってくださればもう少し仕事を手伝え、」


「そんなことを言えば、貴女の腹心の部下である最強の騎士ジェシカ・シアターが私を切るでしょう!? 『お嬢様に余計な負担をかけるな!』とか言って!」


「それは……」


「まあ、そうでしょう。お嬢様に負担をかけるような者など王子とあれど私は容赦しません」



リリィがジェシカを振り返ると『王子でも容赦しない』と返すジェシカがいた。

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