宇野さんの秘密を知ったので、秘密の関係始めました。

とりあえず 鳴

第1話 宇野さんの秘密

「宇野さんの秘密って知ってる?」


 クラスの人がそんな話をしてるのが耳に入った。


「あれだろ? 宇野さんは隠してるけど、家はお金持ちで色んな習い事を習ってるとかって」


「そうそれ。それでしかも一年差で生徒会の仕事を手伝ってて本当に俺らとは違う存在だよな」


 宇野さんとは、普通を売りにしている僕、篠崎しのざき 永継なつでも知っている有名人だ。


 才色兼備でテストでは常に一位、運動も出来て、更に人格優良者。


 極めつけはとても可愛いとの事。


「可愛くて性格も良くてそれに金持ちってやばくね?」


「それな。告白したら付き合えるかな?」


「そんな淡い期待を胸にして何人が沈んでいったと思ってる」


 宇野さんが沢山告白されたというのも有名だ。


 沢山という事は付き合っていないという事もわかる。


 僕も人付き合いが苦手だから気持ちはわかる。


(まぁ告白なんて縁遠い話なんだけど)


 されもしない事を考えたところで時間の無駄だから時間を潰す。


「もう放課後だからみんな帰ればいいのに」と思っていたら今度は最近話題だと言う子役の話が始まった。


 特大のブーメランを飛ばしながら雲を眺める。


(雨、降らないといいな)


 空は暗い雲に覆われて、すぐにでも雨が降りそうだ。


 予報では一日晴れだったから傘は持ってきていない。


(雨が降りませんように)


 そう心で願いながら雲を眺めながらイヤホンを付けて時間を潰す。




「降らないでくれた」


 クラスの人がみんな帰り、辺りは十月という事と雲がある事でとても暗くなっている。


 まだ雨は降っていない。


「閉められる前に帰ろ」


 そろそろ下校時間が過ぎて昇降口が閉められてしまう。


「折りたたみ傘欲しいなぁ」


 折りたたみ傘があれば急に雨が降っても気にせず学校に居られる。


 夏場の急な雨にはとても苦労させられた。


「のんびりしてたら降られるんだって」


 そんな一人ツッコミをしながら帰りの準備をして立ち上がる。


 雨が降りそうだったせいか、いつもは人の声や、帰ろうとする人が少し居る事があるけど、今日は居ないみたいだ。


「部活の人はわざわざこっち来ないもんね」


 僕は部活に入ってないから知らないけど、たまに部活帰りの人を見る時がある。


 でもそれは校舎ではなく、昇降口を出た後でだ。


「だから今日は僕がさい……」


 この空間に一人だけという事に少しウキウキしていたら、異常が起きた。


 別に転んだとかではない。


 少なくとも


「女の子が寝てる?」


 廊下の真ん中でポニーテールの女の子が寝るように倒れていた。


 さすがに寝てる訳ではないのは見ればわかったので近づいてみた。


「大丈夫?」


 肩を揺すって声をかけるが、女の子は反応しない。


 息を乱しているから只事ではなさそうだ。


「保健室の先生まだ居るかな」


 さすがにこの時間に保健室に行った事がないからわからない。


 もし行って居なくて鍵も掛かっていたら女の子が危ない。


「じゃあ職員室に……」


 とりあえず先生を呼びに行こうとしたら女の子に制服の袖を掴まれた。


「大丈夫ではないよね。立てる?」


「……いと」


 女の子がか細い声で何かを言う。


「帰らないと」


「でも危ないよ」


 こんな状況で返す訳にはいかない。


 せめて先生に言って帰すにしても車か何かで送って貰わないといけない。


「かえ、らない、と」


 女の子がまた意識を失った。


 その目元には涙が浮かんでいる。


「帰らないといけない訳があるんだよね」


 きっとこの女の子にはどうしても帰らなければいけない訳がある。


 それは何より大切な事で、もし先生に知らせて病院にでも連れて行かれたら困るから僕を止めたのかもしれない。


「絶対そっちの方がいいよ。だけど違うんだよね」


 僕には到底わからないけど、この子は家に帰らないといけない。


 それなら僕はそれを叶えたい。


「病院には家の人に連れてって貰ってよね」


 僕はそう言って意識のない女の子の身体を触っていく。


 もちろん変な意味ではなく、制服を触って生徒手帳を探している。


「真面目そうな人なら持ってるでしょ」


 案の定胸ポケットに生徒手帳が入っていた。


「真面目そうな人なら住所も書いてる……」


 その生徒手帳の名前を見て女の子を二度見してしまった。


 そこには宇野うの 流歌るかと書いてあったからだ。


「宇野さんと同じ名字……じゃなくて宇野さんか」


 いつもは髪を下ろしているからわからなかったが、この女の子は宇野さんだった。


「そういうのはいいか。住所もあるね」


 後はこの住所に辿り着けるかが問題だ。


 なぜなら僕はスマホを持っていない。


「多分近いからきっといける」


 謎の自信と生徒手帳を持ちながら宇野さんを壁に寄りかからせる。


「起きれないよね。できるかな?」


 僕は宇野さんに背中を向けて宇野さんの両手を自分の肩に乗せて、生徒手帳を持たない手で宇野さんの足を手で支えながら立ち上がる。


 おんぶはできた。


「できた。宇野さん軽いな。鞄は……」


 僕は自分の鞄と宇野さんのらしき鞄を腕にかけて歩き出す。


「宇野さんは軽いけど荷物重い」


 僕の荷物には特に物が入ってないから軽いけど、宇野さんのは教科書が沢山入っているのか片腕で持つには重い。


「肩に掛けたいけど……」


 肩には宇野さんの腕があり今更どかして肩に掛ける事は難しい。


「頑張る」


 明日は腕が上がらなくなる事を覚悟しながら歩くがまた問題が起こる。


「靴どうしよ」


 靴を取って履く事はできるけど、上履きをしまうのが難しい。


 下手をしたら宇野さんを落としてしまう。


「うん」


 考える時間が惜しいので確実な方法をとっていく事にした。


「一旦下ろそう」


 そうすれば靴を履けるし肩に鞄を掛けられて一石二鳥だ。


「宇野さんには後でごめんなさいしよう」


 宇野さんのクラスと出席番号がわからないので宇野さんの上履きを脱がして自分の下駄箱にしまった。


「明日はお休みだから僕が取りに来ればいっか」


 そんな事を言いながら鞄を肩に掛けてから宇野さんを再度おんぶした。


「あ、すごい楽」


 これで明日になって腕がぷるぷるしなくて済む。


 そんな事を思いながら宇野さんの家を目指して歩き出す。




「ここら辺のはずなんだけどなぁ」


 電柱なんかに貼ってある住所を見ながら歩いて来たら十五分程で、後は最後の数字を合わせるだけのところまで来た。


「宇野さんってお金持ちって言われてたからわかりやすいって思ったんだけど」


 ここら辺に豪邸みたいなお家はない。


 むしろアパートが多い。


「あ、後一個」


 やっと数字合わせが終わる。


「ここ?」


 住所を確認したら確かにここだった。


「噂って当てにならないね」


 そんな事を言いながらボロボロとまでは言わないけど、少し古いアパートに入っていった。


「宇野、宇野……。あっ、たけど?」


 確かに郵便受けには宇野という名字があった。


 だけど隣同士で二つある。


「なんという偶然。多分どっちかだよね」


 悩んでいる時間が惜しい程に背中が熱い。


「間違ってたらごめんなさいして隣に行こう」


 そう決めて階段を上る。


「ここか」


 第一宇野さんの部屋の前に辿り着いた。


 チャイムを鳴らしたけど反応がない。


「留守かな」


 留守ならそれでいい。


 隣に行き第二宇野さんの部屋のチャイムを鳴らす。


「こっちも?」


 さすがにこれは想定外だった。


 帰りたいと言うから門限や家の人と約束か何かがあるのかもと思っていたけど、居ないとなると少し困る。


「鍵とかって鞄だよね」


 最悪漁るしかないけど、あんまり女の子の鞄は漁るものではないと思うから最終手段だ。


「とりあえず家に着いた事を教えれば起きるかっ……」


 謎の痛みが僕のお腹にやってきた。


 お昼ご飯が駄目だったとかではない。


 もっと物理的な、何かでお腹を抉られたような。


「おい不審者」


 謎の声が聞こえるけど痛みと宇野さんを落とさないかで頭がいっぱいで相手にできない。


「無視すんな。に何した」


「ねえ、さん?」


 痛みが少し和らいで頭が回るようになってきた。


 どうやら謎の痛みは急に開いた扉のノブがお腹を当たったみたいだ。


 そしてこの声の主である、小さい宇野さんが急に扉を開けて僕を攻撃してきたみたいだ。


「じゃあここは宇野さんの家であってる?」


「そうだよ。いいから姉さんを下ろせ」


「いいけど、運べる?」


「なにを?」


「宇野さんを」


 小さい宇野さん、おそらく妹さんが僕に背負われている宇野さんを見て目を見開く。


「……入れ」


 妹さんは僕と宇野さんを交互に見てからチェーンを外して扉を開けた。


「お邪魔します」


 靴を脱いで妹さんの後に続いて歩く。


 中はやはりと言うべきか、奥に部屋があるだけで、二人で住むには少し手狭に感じる。


 そう、で手狭なのだ。


「流歌さんだっ……」


 奥の部屋から気弱そうな女の子が覗いてきて、僕に気づいてすぐに隠れた。


(三姉妹?)


「上には上げられないよね。机片付けて芽衣莉めいり


「うん梨歌りかちゃん」


 芽衣莉と呼ばれた気弱そうな女の子が机を片付けて、梨歌と呼ばれた妹さんが布団の準備をしてくれた。


部屋はとても綺麗にされているが、逆に言えば物が少ない。


「寝かせて」


「うん」


 梨歌さんに言われたので宇野さんを布団に優しく下ろす。


「姉さん無理し過ぎなんだよ」


 梨歌さんが宇野さんのおでこを触りながら言う。


「皆さんは帰らなくていいんですか?」


 さすがにもう外は暗くなっていて、女の子が一人で帰るには遅すぎる。


「は? 帰ってんじゃん」


「え?」


「ここが私達の家。姉妹だけで住んでたら駄目?」


 とてもすごい秘密を知ってしまって驚いて何も言えなかった。

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