セイレーン


 セイレーンの歌声を聴いた者は、自ら命を絶つという。

 その噂を聞いた自殺志願者の男が、セイレーンの歌を聞くために巣にやってきた。

 

 歌を聞く。


 少しも死ぬ気にならない。


 舐めやがって。


 逆上した男は、セイレーンを皆殺しにした。


 男は知らなかったことだが、セイレーンの素材は高く売れる。それを売却した金で財産を築いた男は、貴族の権利を買い、裕福に暮らした。


 もはや、死ぬ気など欠片も無かった。


 しかし、ある日、世界に終末がやってきた。


 終末を知らせるラッパの音は、セイレーンの歌によく似ていた。


 男の家族が死に、友が死に、領民が死に、人間が死に、モンスターも動植物も、何もかもが死んだ。



 男は死ねなかったそうだ。



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