【第一部完結】黒竜王は花嫁を溺愛する
浅葱
序~黒竜王に嫁ぎました
――どうしてこうなったのかしら?
今は初夜の翌朝。
つい先ほどまで、この国を統べている黒竜王様が横にいた。
そう、梅玲はなんと昨日黒竜王の妻になったのである。
全く実感が湧かない彼女はしばし途方に暮れていた。
昨日からの出来事をゆっくりと思い出していく。
そうして梅玲は顔を赤くしたり、青くしたりして過ごした。
黒竜王の眷属だという女官が、彼女を起こしに来るまで。
* *
黒竜王が花嫁を探しているという話は聞いていた。
一月ほど前のこと、住んでいた外れの村にも勅旨を持った役人たちがやってきて、「黒竜王様の嫁取りが始まった。もし黒竜王様がこの村を訪ねてくることがあれば、村の独身の女たちを黒竜王様に見せるように」と偉そうに言って戻っていった。
私が住んでいる村で独身の女といったら、行き遅れの私と未成年の少女ばかりである。
この村の女は成人したらすぐに誰かに嫁ぐか、村長の息子の妾になる。妾は独身には含まれないのかと村長が慌てたように聞いていたのを覚えている。
「妾は独身とは言わぬな」
と、役人は村長を軽蔑するような目で見てのたまった。
村長はその時悔しそうな顔をしていた。妾を黒竜王の花嫁にできたらとか考えていたのだろうか。
この村で女が生きて行こうと思ったら、誰かと結婚するか村長や村長の息子の妾に収まるしかない。田舎の村ではなく町では女ももう少し自由に生きていると聞いたことがあるが、この村で女に与えられる仕事は家の中のことだけだ。
さて、私は二十一歳である。
立派な行き遅れだ。
その理由はなんてことはない。顔に火傷の跡があるからだ。
火傷の跡自体は頬に二厘米(2cm)ぐらい丸くなっているのがあり、赤黒くなっているからけっこう目立つ。
これは四歳の時、飼っている鳥によって付いたものだ。詳細は省くけど、この火傷のおかげで村長の息子の妾にならずに済んだのである。
だから私としては行き遅れは嘆くことではなく、幸せなことだった。
橙と赤の羽が鮮やかな鳥はかなり大きくなった。鳥の種類はわからないけど、羽を閉じれば肩にかろうじて乗るぐらいの大きさで鷹かな? と思う程である。とさかとは違うのだろうか、頭の上の羽はピンといつも立っている。羽を広げればとても美しい鳥なのだということがわかる。この鳥は自力で餌を捕ってくるし、不思議なことになんとなくその鳥の考えていることが私にもわかるのだ。
その鳥には
役人が帰った後わざわざ村長の息子が声をかけてきた。
「梅玲、変な期待はするんじゃねえぞ」
「期待?」
この男は何を言ってるのだろう。
「お前みたいな傷持ちが黒竜王様の嫁になんかなれるはずないだろ?」
呆れてしまった。
「……いったい誰がそんな大それたこと考えるのよ?」
キィアアアーーーッッ!
私の足元にいた橙紅が不快とばかりに鳴く。
村長の息子は「けっ、なんだよ!」と悪態をついて後ずさった。以前私の腕を掴もうとして橙紅に散々つつき回されたことを覚えているのだろう。情けないことだ。
「橙紅、行こう」
私が黒竜王の花嫁とかなんの冗談かしら。どこの誰もそんなことを考えたりしないだろう。
でももし、できることなら……妹が黒竜王様の花嫁になれたらいいのにと思ってしまう。
「……無理よね」
来年妹は成人する。うちの父は
このままでは妹は、村長の息子の妾にされてしまうかもしれない。
でも逃げるあてもない。
橙紅に手伝ってもらって採ってきた薬草などを売った金も、生活費で消えてしまう。
少しぐらいは貯めたけど、これではなんにもならないだろう。
「妹が、
クウゥ……と橙紅が慰めるように鳴いてすりすりしてきた。
「ありがとう、橙紅」
貴方のおかげでがんばっていられるの。
だけど残念ながら、私の頭ではどうしたらいいのかなんて皆目見当もつかなかった。
それから一月が経ったある夏の日、私は村に隣接する森の中で黒竜王に出会ったのだった。
ーーーーー
新連載ですー。今日はのちほどもう1話上げます。
毎日2話更新で、20話程度で終わります。「嫁入りからのセカンドライフ」中編コンテストに参加します。よろしくー
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