第2話 二人の距離
◇◇◇
俺は彼女に会うたび、大好きだったおっさんを思い出し、なんとも言えない気分になった。多分、苦虫を噛み潰したような顔をしていたと思う。あれから本の話はやめた。だけど、大人みたいにカーテシーをきめる彼女と、何をして遊んだらいいかも分からない。
二人で会うときはただ、黙々と菓子を食べ、お茶を飲む。当たり障りのない天気のことや好きな食べ物についてポツポツと話す。正直つまらない。
かといって他に話題もない。そうだ。一緒に色んな場所に行けば、共通の話題ができるじゃないか。そう思って旅行に誘ったら断られた。忙しいらしい。俺だって忙しい。じゃあ街に行かないか?と聞けば、街で何をしたらいいか分からないと言う。そうだな。俺も分からない。
大体子どもが二人で何をしたらいいんだ?女は普段何をして遊ぶんだ?そう思ったので、彼女に直接聞いてみた。
「ソレイユは普段何して遊んでんの?」
彼女は困った顔をして、遊んだことがないと言う。なるほど。つまらないはずだ。世の中に遊んだことのない子どもがいるなんて想像もしてなかった。
「じゃあ、普段何やってんの?」
「主に、素敵なレディになるためのお勉強をしています」
素敵なレディになるための勉強ってなんだ。さっぱり分からない。
「刺繍をしたり、絵を描いたり、語学の勉強に音楽のレッスン……」
聞いているだけで頭が痛くなってきた。
「じゃあ……あの本も、勉強で読んだの?」
「あれは……カイル様がお好きな本だとお聞きして、お逢いしたときに共通の話題になればいいなと思って」
彼女は恥ずかしそうに笑った。何それ可愛い。いやいや、待て。彼女は俺にトラウマを植え付けた人物だ。そんなことぐらいで惚れるわけがない。落ち着け。
「あ、あの。あのお話、最後まで読みましたか?」
「読んでない……おっさんのこと好きだったから、死ぬところなんてみたくねぇし」
「ち、違うんです!重要なネタバレになっちゃうから黙ってたんですけど、本当は生きてます!」
「えっ?」
「本当は生きてて、子どもが絶体絶命のピンチになったときに颯爽と駆けつけるんです!」
何それかっこいい。
「おっさん、死んでねぇの?」
「はいっ!死んでませんっ!」
「ほんとのほんと?」
「本当です!」
「良かった……死ぬわけねぇと思ったんだよ。だって、そんなのおっさんらしくねぇじゃんか」
「はいっ!私が一番好きなシーンなんです!」
「待って、今度会うまでに全部読んでくるから。そしたら、一緒に話そう」
「はい。一緒にお話しましょうね」
にっこり笑った顔がすっげぇ可愛くて。
「俺、ソレイユのこと好き」
思わずそう言ったら真っ赤になって逃げた。めっちゃ足速い。さすが普段からダンスとか歩き方の練習してるだけあるな。ヒラヒラしたドレスにヒールのある靴履いて、あれだけ速く走れたら凄いと思う。
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