甘美な雨宿り
―――
そして、柚希の住むアパートに到着した。
雨が降っている間、ここで彼女と2人っきりだ。
「すいません柚希さん、雨宿りさせてくださって本当にありがとうございます」
家に入って俺はすぐに柚希に頭を下げてお礼を言った。
「いいのいいの、気にしないで。あの時のお礼ってことで、ね?」
「は、はい……」
あの時というのは、原作6巻の45話、柊斗と柚希が初めて会った時のことだな。記念すべき推しの初登場回だし、当然俺もしっかりと脳に焼きついている。
「あれ? 柊斗くんからメッセージ来てる……! ごめん柊斗くん、私全然気づかなかった……」
スマホを見た柚希は俺がさっき送信したメッセージがあることに気づき、申し訳なさそうに両手を合わせた。可愛い。
「いえ、いいんですよ」
無視されたわけじゃないしもう柚希に会えたし何の問題もない。
転生して二度目の柚希の家。二度目でもやっぱり緊張してドキドキが止まらない。
自分の家……というか苺の家の方が圧倒的に広くてキレイで良い家ではある。苺は金持ちのお嬢様なんだから当然だけど。
しかし俺としては柚希の家がとても魅力的に感じるのはなぜだろうか。普通の家賃安いアパートなのに。まあどんな家でも関係なく柚希の家はドキドキする。彼女がいればたとえ廃墟でも桃源郷になる。
「柊斗くん、そんなかたくならないでよ。気楽にリラックスしてくつろいでいいからね」
「は、はい……」
とりあえず返事はしたものの、気楽にってのはちょっと厳しいな。家に入った瞬間から柚希のいい匂いでいっぱいで、気を抜いたら変な気持ちになりそうなんだ。いろんな意味で硬くなりそうだ。
柚希はテーブルにレジ袋を置き、買ったものを中から取り出してテーブルの上に置いていく。
彼女が買ってきたのはお菓子と缶チューハイだ。
お酒……お酒だ。
ヒロイン候補の中で唯一成人済みの柚希はお酒を飲める。柚希は酒が好きで原作でも何度か酒を飲むシーンがある。それがラブコメ読者にウケるかどうかはおいといて、他のヒロインにはない柚希だけの属性だ。俺は好きだ。
お酒を飲むってだけでオトナっぽい雰囲気を感じられて、俺は原作を読んだ時めっちゃ可愛い。
俺は現在未成年だし、前世でも下戸なんで酒を飲んだことは一度もないから、酒を飲めるお姉さん憧れるなぁ。
「ねぇ柊斗くん、お酒飲んでもいいかな?」
「えっ? もちろんいいに決まってるじゃないですか。ここ柚希さんの家なのになんで俺の許可を得る必要があるんですか? 雨宿りさせてもらってる立場なのに口出しする権利ないですよ」
「でもホラ私、酒癖悪いから……柊斗くんに迷惑かけちゃうかも……」
「俺は全然気にしません」
むしろ大歓迎だ。原作でも酔った柚希はメチャクチャ可愛かった。
その柚希をこの目で見れるなんて至福の極み。
「あの時だって迷惑かけちゃったし……」
あの時……確かに初登場の時、柚希は酒に酔ってたな。しかも泥酔してた。
「大丈夫ですって、迷惑なんかじゃありません」
「ありがとう、じゃあちょっとだけ……」
プシュッと缶を開ける音がして、彼女はチューハイを飲み始めた。
「……柊斗く~ん……」
「…………はい」
まだ少ししか飲んでないはずだ。それでも柚希は顔が赤くなっていた。
もう酔っている。酔うの早い。
柚希は酒が好きだ。が、酒に強いとは言ってない。
むしろ弱い。酒に弱いのを自覚していて弱めのチューハイを飲んでるが、それでもすぐに酔った。
紅潮した頬で、潤んだ瞳で、まっすぐに俺を見つめてくる。
そんな柚希の姿はとても妖艶で、強くドキッとさせられた。
彼女が酔っている姿を見て、あの時のことを思い出す。
俺が転生する前の話で俺自身が体験したわけじゃないが、漫画で読んだ内容を思い出す。
―――――――――
原作の45話。
ある休日の夜、栗田柊斗は1人で繁華街を歩いていた。
親友の芋山善郎と遅くまで遊んでいて、その帰り道の途中だった。
路地裏で1人の女の子がうずくまっているのを発見した。
それが武岡柚希との出会いだった。
路地裏でうずくまって気持ち悪そうにしている状況。
これから何が起こるか、読んでた俺も柊斗も、おそらく多くの読者も察した。
柚希は排水溝に吐いた。
予想通りの展開だ。繁華街では毎日のように見られる光景。飲みすぎて気持ち悪くなって吐いているただの酔っぱらい。それが柚希の初登場。
そう、彼女はお色気要員でありゲロインでもあった。この時点で彼女の扱い、立ち位置がほぼ決まった。
柊斗は持ってた水を柚希に飲ませてあげて、背中を優しく擦って介抱してあげた。
酔いが覚めた後の柚希は柊斗に土下座謝罪して死ぬほど感謝して、それから柊斗にメチャクチャ懐くようになった。
これが45話の内容。
柚希が柊斗に惚れた理由はほとんどこれだけだ。初登場から惚れるまでがメッチャ早かった。お色気要員でありゲロインでもあり、さらにチョロインでもあった。
途中で追加されたヒロインだから作者もあまり深く考えておらず掘り下げる気もなかったのがわかる。
―――――――――
で、その時と同じように柚希が酔っている今の状況。
栗田柊斗なら難なく対処できるんだろうが、俺は大丈夫なんだろうか。もうすでに彼女の魅惑の色気に耐えられる気がしない。
原作では酔った柚希が服を脱いで下着姿で柊斗を誘惑するシーンがいくつかあった。
さすがの柊斗も下着姿で迫られたら平静を保つことはできなかったが、それでも誘惑に耐え抜いた。自慢じゃねぇが俺は耐えるなんて不可能だぞ。
今回は……今回はどうなるんだ……
スッ……
グッ……
「……っ!」
柚希は両腕をクロスさせて服の裾を掴み、下から捲り上げる。
おへそとくびれのあるウエストが見えた。この時点でスタイル良すぎるのがわかる。
そして少しずつ上に上がっていき、水色のブラジャーが露わになった。
そのまま柚希は上半身下着姿になった。
「~~~ッ!!!!!!」
ヤバイ……ヤバすぎるって。
童貞に好きな女の子のブラ姿はヤバすぎるって。刺激が強すぎて下半身が焼き尽くされそうだ。さっき透けてるの見てしまったけど、直接見る生の素肌とブラは全然違う。
原作でも何度も見た光景だけどブラに包み込まれた柚希の胸は原作よりももっともっと扇情的だ。本当にすげぇ乳、すげぇ谷間だ。大きさも形も完璧だ。金を払っても見る価値は絶対ある……
……いや、見ちゃダメだろ。それはわかってるが俺の身体が言うことを聞かない。
紳士な男はすぐにサッと視線を逸らせるんだろうが、俺は視線が釘付けになって離せない。
はち切れそうな豊満な乳房がブラで支えきれずちょっとはみ出しているのに気づいてしまったが最後、どうしても気になって視姦してしまう。こんなん目に焼きつけずにはいられない。なんて最低でみっともねぇんだ俺は。
柚希の名誉のために言っておくが、いくら柚希がお色気要員で積極的とはいえ、決して痴女ではない。シラフで人前で脱いだりはしない。
しかし酔うと柊斗がいても構わず脱ぐことがあるというだけだ。さすがに他の男がいたら脱がないけどな。柊斗だけが特別で、柊斗の前でだけ酔ったら脱ぐ、そういう設定なんだ。お色気要員としてなんて都合のいい設定なんだ。
「あの……ど、どうしたんですか柚希さん……」
「だってちょっと服が濡れちゃったから着替えようと思って」
そ、そうか、確かに風邪ひいたら大変だもんな。脱ぐ理由としては十分すぎる。不自然でもなんでもない。
そして俺は主人公の栗田柊斗だから合法的に柚希の下着姿を観賞できる。ラブコメ主人公最高すぎる。
スッ……
「!!!!!!」
柚希は背中に腕を回して、ブラのホックを外そうとした。
性欲獣のくせに肝心なところでヘタレな俺はサッと視線を逸らして向こうを向いた。さすがにそこまではダメだ。これ以上はもう俺が持たない。襲いたくなる、犯したくなるのを必死に我慢してるってのに、こんな状態で柚希のブラの中身まで見てしまったら人として大事なモノがプツッと切れてしまう。
「あっ、そうだ。肝心なことを言い忘れてた!」
「えっ?」
柚希がいきなりハッとしたようなことを言って、俺は恐る恐る振り返ると、柚希はまだブラを装着したままだった。ブラを外そうとして一旦やめたっぽい。ホッとしたような、残念なような……
「柊斗くんも濡れちゃったでしょ? お風呂貸すからシャワー浴びてきなよ」
「!!!!!!」
お風呂……柚希ん家のお風呂だと……!?
柚希、こんな変態にこれ以上エサを与えるなよ。本当に襲ってしまうぞ……
「い、いや、だったら柚希さんが先にシャワー浴びてくださいよ。柚希さんの家なんだから柚希さんが優先ですよ」
「柊斗くんの方がずぶ濡れじゃん。私はちょっとだけだから大丈夫。どう考えても柊斗くんが優先でしょ。もっと早く言わなきゃいけなかったのに、ごめんね」
柚希、酔ってても優しい……マジで好き。すぐに結婚して毎日一緒に入浴したい。
なんて考えてる場合じゃない。俺がマジでずぶ濡れなのは確かだし、柚希の優しさを無下にはできず、俺は柚希の家のシャワーを借りることになった。
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