第3章…俺の推しはお色気要員

急に雨が降ってきた




―――




 俺がこのラブコメ世界に転生して2週間くらい過ぎた。

そろそろこっちの生活に慣れてきたって感じはする。


こっちの世界で生活してみて気づいたこと。

展開や設定に原作と微妙に違う部分がある。

テレビや新聞やネットで調べてみた感じ前世と似たような部分も多い。

ってところか。


原作と微妙に違うといっても大筋の部分は変わってない。

このままいけば俺は苺と結ばれることになる。


でも、俺が好きなのは……




―――




 学校が終わった後、柚希に会いたくなった。

この前会ったが、今もメチャクチャ会いたい。好きだから。


……いや待て、連絡すればいいじゃねぇか。

この前も電話すればいいものをわざわざ直接家に行ったりして……バカか俺は。


今が原作の終盤なら、とっくに連絡先は交換してあるはずだ。


俺はスマホを取り出して中を見る。

前世で持ってたスマホとだいぶ違くて操作に慣れないが、時間がかかりながらもなんとか柚希の連絡先を探す。


あるはずだ、柚希の連絡先……


…………

……



あったあった、よかった……!

ないかもしれんと思ってヒヤヒヤした。


ヒロイン4人、全員の名前と連絡先がバッチリ登録されてある。

転生って便利だなぁ。初期設定からある程度必要なものは揃ってて初心者に優しいのはすごく助かる。


スマホにある『武岡柚希』の名前……その名前を眺めるだけでドキドキしてくる俺は本当に末期だ。


……メッセージ送ってみるか? 何て送るか?

『会いたいです』って送ってみるか? いやキモすぎるか? いや向こうだって俺()に好意を持ってくれてるんだ、迷惑ってことはないと思うが……


それに柚希は恋愛に関してはド直球ヒロインだ。ド直球にはド直球で返すべきだ。


俺は素直な気持ちをメッセージにして送った。

すげぇ緊張してやめようかと思ったけどそれより下心が勝って勢いで送信してしまった。

もう後戻りはできん……返信を待つ。ドキドキバクバクしながら待つ。この待ち時間は気が遠くなるほど長く感じた。




 ―――5分後。

来ねぇ……返事が来ねぇ……


この時間が辛くて俺はその場でしゃがみ込む。既読にはなってねぇから無視されてるわけではないと思うんだが……



『~~~♪』


来たあああ! メッセージが来た!!

俺は瞬時にメッセージを確認する。



って、苺からじゃねぇか!


『醤油切らしたから買ってきて』


それだけだった。ただパシられただけだった。

お前同じクラスだろうが! 直接言えや!!

タイミングもめっちゃ悪くて俺はさらにガックリと肩を落とした。


その後もしばらく待ったが、返信は来ない……




―――




 そして俺はまた柚希の家に来ていた。

返事がなかなか来なくて待ちきれなくて来てしまった。ストーカーだなこれは。


そして家に柚希はいなくてまた肩を落とした。この前みたいにお風呂に入ってたとかじゃなくて、呼び鈴を鳴らしてしばらく待ったけど出なかったから今回は確実にいない。

落ち着け、今日は平日だ。まだ夕方だ。まだ大学にいる可能性が高い。



というわけで俺は柚希が通う女子大の前に来た。

マジもんのストーカーだ。向こうも好意を持ってくれてることが大前提のムーブだからなこれは。一方的に片想いだったら完全アウトで警察来るからな。よい子は俺のマネをしてはいけない。


……で、来てどうするんだ。

大学の入口で待ってみたところで、都合よく彼女と会えるだろうか……

もうとっくに帰ったかもしれないし、まだまだ帰らないかもしれない……



ゴロゴロゴロ……


ん? 急に空が曇ってきたな。いつの間にか空が黒い。

……まさか……いや、まさかな……



―――ザーッ!!


イヤな予感が的中した。雨が降ってきた。しかも大雨だ。

傘を持ってきてない俺はあっという間にビショビショに濡れる。


すぐに逃げろ! 近くにコンビニがある。そこに避難だ。

コンビニの前で雨宿りする。ここで雨が止むのを待つつもりだが、雨の勢いがどんどん強くなって止む気がしない。いつになったら帰れるんだ。柚希に会いに行って帰れなくなるとはバカの極みだな俺は……


……あ、そうだ。コンビニならたぶん傘売ってるだろうし、買えばいいのでは……

だが家に新品の傘あるんだよな。お嬢様と一緒に住んでるくせに傘の料金すらもったいねぇと思ってしまうケチ貧乏な俺がいる。前世で穴が開いたボロ傘をいつまでも使ってたくらいだ。



ガーッ


コンビニの自動ドアが開いて、人が出てきた。



「あれ? 柊斗くん!」


「!!!!!! ゆ、柚希さん!!」



なんとコンビニから柚希が出てきた。

レジ袋を持ってて、買い物をしてたようだ。こんな形で会えるとは。



「何してんの柊斗くん」


「えっと……急に雨が降ってきたので雨宿りしてます」


「でも全然止まないと思うよこれ」


「そうなんですよね……」


「傘持ってないの?」


「ないですね、急だったもので……」


「もしよかったらウチに来る?」


「えっ!?」


「ウチ、ここから歩いて行けるし。雨が止むまでウチにいればいいよ」


確かに柚希の家は大学の近くにあって徒歩で行ける距離ではあるが……



「い、いやでも悪いですよ……」


「何言ってんの、この前柊斗くんの方から来たじゃん」


た、確かに……しかしあの時はテンションがおかしくなってて勢いで行っちまったというか……


「柊斗くんならいつでも大歓迎だよ? 気軽においでよ」


「……じゃ、じゃあお言葉に甘えて……お願いします」


「よし決まり! じゃあ一緒に行こっ」


悪いとは思いつつ、下心がモリモリな俺には断る選択肢など1ミリもなかった。

すごく幸せな展開が来た。雨ありがとう。ラブコメ世界っていいな、最高だな。



柚希は傘を開いた。すげぇ可愛い傘だ。


「ホラ柊斗くん、傘に入って」


「え、入っていいんですか!?」


「当たり前じゃん、傘持ってないんでしょ? 私がキミを雨に打たれさせるような鬼畜な女に見える? ホラ、遠慮しないで」



ぎゅっ


「!!!!!!」



柚希に手を握られる。推しと手を繋いだ俺は沸騰して悶え死しそうになった。

半ば強引に彼女の傘の中に入る。


相合傘……!

相合傘だ……!!


前世でも女の子と相合傘なんて当然経験なかった俺が今、好きな女の子と、推しと相合傘している。

いくらラブコメ主人公に転生したからってこんなに幸せでいいのか俺ごときが……反動が怖くなるくらい幸せだ。



「雨すごいね」


「そ、そうですね……」


ドキドキしながら隣にいる柚希を見る。



「!!!!!!」


よく見たら柚希も濡れてる。ずぶ濡れの俺に比べたら全然マシだけど濡れてる。傘を持ってるのになぜか濡れてる。

柚希ってちょっとドジでポンコツなところもあるんだよな。お色気要員にありがちなスキだらけっていうか……そんなところも可愛すぎる。


ていうか、濡れててブラジャーが透けてる……水色のブラジャーがうっすらと見える……!!



「~~~っ!」


俺は慌てて視線を逸らす。童貞には刺激が強すぎて危険だ……これ以上見たら理性が壊れる。暴走寸前なのを死ぬ気で抑える。



「どうしたの柊斗くん」


「い、いや、なんでもないですっ!」


「ふふっ、そっかそっか」



柚希は天使の笑顔を見せてくれた。

俺……童貞丸出しでキモすぎるのに……普通なら絶対キモがられる。前世では女子にキモがられたこと、たくさんあった。

だけど柚希はこんな俺にも優しい笑顔で接してくれる。今はなんだから当たり前かもしれないが、それでも彼女の優しさは俺の心に染み渡る。


原作じゃあまり描写されなかったが、彼女は本当に心優しい女の子なんだ。

エロだけじゃない……他にもいいところがいっぱいあること、俺は知っている。


ほとんどの読者はエロ目当てで、エロ以外の部分には気にも留めなかったかもしれないが、俺は彼女のすべてが好きだ。

彼女はエロだけの存在じゃないってこと、俺が証明したい。

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