第五八話 修行の果てに②
修行を始めるぞと言ったバンリーベルは右腕のみを蝙蝠に変化させると、蝙蝠を飛ばして壁に掛っているロングソードを取ってくる。
「まずはお主の使う力を見せてくれぬか」
俺は頷き、いつものように心の臓から溢れる力を剣に流し込み、
「……『風薙ぎ』」
風を起こす。すると、バンリーベルは腕を組んでふむと唸る。
「その前の段階にしてくれ」
「前の段階?」
彼女の言っている意味が分からなかった。
「自然の力を操る前に剣に力を流し込んでおるだろ」
「そうだ」
「流し込んだ状態だけでも剣の威力を強化できるはずだ」
「…………?」
俺はゆっくりと首を傾げると彼女も俺に合わせて首を傾ける。
「まさか! やったことないのか!」
バンリーベルは首を元の位置に戻して慌てたように叫ぶ。
「ああ、その通りだ」
俺はハッキリと言ってやった。
「何故にそんなに堂々としておる……」
バンリーベルは怪訝な面持ちだった。そのあと彼女は溜息を吐いて喋り始める。
「お主がやっているのは
「剣煌気……」
それがこの力の名前か!
「魔力は全身の神経から練るもの、そしてお主が使う力は心臓から練るものだ」
ということは俺が使う力は生者にしか扱えないのか。
「そして剣煌気と呼ばれる気の力は広義的には闘気と呼ばれておる。闘気を剣に適用させたものを
「ややこしいな、剣煌気はどこに行った」
「剣気を極めれば剣煌気となる。お主はいつのまにか極めてしまったというわけだ。この領域に辿り着くのは常軌を逸した執念を持ち続けて剣の道を進んだ者のみだ」
そのあと、バンリーベルは剣を構える。
「これが剣気だ。そして、これが――」
剣が橙色のオーラに包まれたあと、
「――剣煌気だ」
メラメラとした青白いオーラとなった。
剣煌気を使える彼女もまた常軌を逸した執念で剣の道を進んだということか。
「剣煌気を自由自在に扱えれば戦える幅も自然を操る力が今以上に増すだろう」
その言葉に俺は口端を吊り上げる。
「今以上に……!」
強敵であるファルカオ、サムエル、プピロットを打ち破ってきたが偶然にも彼らとは一対一だった。もし彼ら三人を相手にしていれば負けていただろう。それにナナの無数の魔法にはなんだかんだ苦戦していた。
それでも今日まで生き残ったわけだが、今以上に強くならねばとは思っていた。
「頬が緩んでおるな」
バンリーベルに言われて俺は頬に手を当てる。
不気味にも微笑んでいたらしい。
「悪い、無意識だった。今、お前と会えて良かったと思っていた」
「ふふん、その言葉は修業が終わってからにしてくれ」
鼻を鳴らし、嬉しそうなバンリーベルは剣を持ってない方の手で人差し指を立てる。
「まずは闘気を体全体に行き渡らせることだ、さすれば身体能力が向上するわい。王国の連中は厄介にも『フィジカルアップ・サード』を使える者が多いからのう。これができなければお話にもならぬ」
「確かに……『因果律無効の魔眼』があるとはいえ基本的には俺が後手に回ってから攻撃していたからな」
彼女の言葉に同意したあと、剣を抜かずに闘気を全身に行き渡らせる修行を始めた。
「――――――ハアアアアアッ!」
俺は両拳を腰に添えながら全身から橙色のオーラを噴出させる。
「コントロールができておらん! 全力を出し過ぎている」
「クソッ……はぁはぁ……」
俺は多量の汗を掻きながら床に手をつき、息を整える。
闘気を出すこと自体はできてはいるので次は闘気をコントロールする修行をすることになった。
「――――――よし、いいぞ! 次は組手をしようではないか」
「なんか楽し気だな。気持ちは分からなくもないけど、な!」
と、言い切ると同時に俺は体から揺らめく橙色のオーラを噴出させつつ、バンリーベルに向かって跳ぶ。
この状態ならば魔眼の力を使わずとも王国の一般兵を倒せる気がする。
俺とバンリーベルは拳と蹴りを打ち合わせる。
「そのまま徐々に身体能力を上げるんだ」
指示通りは俺は更に闘気を放出し、空気を切り裂くような拳を繰り出し続ける。それをバンリーベルは足技で受け流していく。さらに俺は飛び出して蹴りを放つ。
「フッハハハハハ!」
蹴りは交差させた腕に受け止めれてしまったが俺は哄笑しながら、下段、中段、上段の三段蹴りを食らわす。
バンリーベルは平手で蹴りを受け止め続けた。
「ハイになっておるな!」
「ああ! お前との戦いが終わりがなさそうだからな、楽しくないわけがない」
俺が思ったことを吐露すると、バンリーベルの頬も緩んでいた。
拳と蹴りを再び打ち合わせ、最初の修行は八時間にも及んだ。
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