第四六話 重力操作の魔眼①

 俺とセラは橋で魔道教に仕える神官達を迎え撃つことになったのだが、


「早く来いよ」


 俺は足踏み状態の敵を挑発していた。


「ぐっ……!」


「好き勝手言いおって!」


 神官達は苛立ちを隠せなかった。


 敵は俺達に近づけなかった。ファルカオとサムエルに深手を負わせた事実が敵を警戒させていた。近接戦闘には持ち込みたくはないのだろう。


「腰抜けですわ」


 横にいるセラは呑気に前髪を掻きわけていた。


 セラの存在も敵が近づけない要因の一つだ。素手でナナとレイズを気絶させたのだから無理もない。


「一斉に攻撃魔法を撃ち込め!」


「「「はっ!」」」


 誰かの合図で神官は俺達に指を向け、


「『ファイア・ビーム』」「『ウォーター・ビーム』」「『サンダー・スピア』」


 各々、様々な攻撃魔法を唱える。

 

 神官は二〇〇人いるが橋の上にいるおかげで俺達と向かい合っている連中しか魔法を撃てない。とはいえ、橋の幅は三五メートルもあるので七〇名近くが魔法を撃ってきた。


 俺は迫り来る魔法に対して右手を向け、


「無駄だ」


 『因果律無効の魔眼』で攻撃魔法を四方八方に散らす。


「くそ無駄か!」


「だがあいつは無数の魔法を撃っていたナナ将軍に手こずっていたんだ! このまま続けるぞ!」


 ナナは今以上の数の魔法を余裕で撃てるうえ、威力も段違いだ。


 一言で言ってしまえば神官達とは格が違う。


 俺は神官達の攻撃魔法を散らしながら、剣の切っ先を相手に向けて構える。


「なんかやるつもりだぞ!」


「大丈夫だ、あいつは魔法を使えない! この距離で攻撃できるはずがない」


 神官達は俺の動きに怯えるも、強気の姿勢を取る。


「一ケ月も経つのに俺の情報を王国側と共有していないみたいだな」


 俺は剣を宙に向かって突き出す、


「ぐはっ!?」


 一人の神官が胸を押さえて独りでに倒れる。魔眼の力で俺の突きを届かせた。


「う、撃て! あいつも人間だ! 体力が落ちるまで続けるんだ! 敵の殲滅力は高くない!」


 しかし、神官達は攻撃を続ける。


「魔道教万歳! 魔道教のために死ねるなら本望!」


 狂信的だな。敵ながら洗脳されてないか心配になる。


 いや、これもう洗脳されてるだろ。


「手伝いましょうか?」


 セラが助太刀を申し出る。


「いやいい、試したいことがある」


「分かりましたわ」


 俺は再び剣の切っ先を敵に向けて構える。


「王都で戦ってから一ケ月経ってるんだ、俺がなんの進歩もないと思うなよ」


 俺は心の臓から溢れる力を剣に伝わらせる。


 一ケ月間、この正体不明の力を、使いこなせるように鍛錬してきた。


「『流穿りゅうせん』!」


 俺が剣を突き出した瞬間、幾つもの針状の水が飛び出す。


「「「ぐああああああっ」」」


 一本の針によって二、三人の敵は串刺しにされ、数十人の敵を一気に討ち取った。


「水を出してきたぞ……!」


「こんな力知らない!」


 敵は慌てふためく。


 俺の力は自然の力を利用するらしく、空気中に含まれる水も利用できると考え、今の技を編み出した。


 このまま一気に敵を殲滅しようと思った矢先――


「そこまでである」


 ――聞いたことがある声を聞いて俺は踏みとどまる。


「枢機卿が来てるとはな」


 魔道教のナンバーツーであるジャスティン・バーバーが現れた。


 一ケ月前に王都の噴水広場で会ったとき以来の対面だ。


「セラフィ王女よ、哀れであるな」


「どうしてかしら」


 ジャスティンの言葉に首を傾げるセラ。


「王族として栄華を手にできるにも関わらず、地位と権力を手放すとは実に嘆かわしいのである。くわえて今の王に子息はいない。初の女王となる可能性もあったのだぞ」


「……アハハハ!」


「!?」


 突然、背中を丸めて吹き出すセラにジャスティンは驚嘆した。


「笑わせてくれますわ、それは貴方の価値観でしょうに、わたくしは今幸せですわ」


 セラはこれ見よがしに俺の腕にしがみつく。


「動きにくい離れろ」


「いけず」


「やかまし」


 セラはしょうがないなぁと、言いたそうな顔で離れる。


「理解できないのであるな……まあいい、ここで貴様達は終わりである! プピロット! 前に出ろ!」


「プピロットだと」


 俺はジャスティンの叫んだ名を復唱した。


「眠いよ…ああ、眠いなあ」


 細身で左眼を黒い前髪で隠した男が現れた。年齢は俺とそう変わらず、鈍色のローブを着ていた。


「まさか彼が出てくるとは思いませんでしたわ」


「俺もだ」


 今現れた男の名はプピロット・ベン。


 魔道教には異端者を排除する異端審問官という役職がある。そして、プピロットは最年少の異端審問官である。つまり、若くして他を圧倒する実力者ということになるのだが……戦闘スタイルが不明だ。


 というかプピロットが戦闘をしたことがあるという話を聞いたことがない。何故なら彼は戦わずとも敵を倒せる異能の力をもっているからだ。


「反逆王女のセラフィと魔眼持ちの反逆者ファルか……こいつらをやればいいんだね」


 プピロットは怠そうにジャスティンに顔を近づける。


「そ、そうだ!」


 戸惑い気味のジャスティン。


「じゃあ、やるかあ」


 ジャスティンは前髪をピンで留めて隠れた左眼――鈍色の眼を見せてくる。あの眼こそが噂に聞くプピロットの持つ異能――『重力操作の魔眼』だ。

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