第四四話 都市国家を目指す

 あれから二週間経った。


 日用品や食糧は王国の兵士が駐在していない村で補給しつつ、俺達は各地を飛空艇で点々と移動していた。また、移動の際はセラの透明化魔法を使うことで追跡の手を攪乱していた。もっとも、そんなことをしなくても王国の広大過ぎる領土のおかげで逃げおおせたのかもしれない。


 現在、飛空艇の談話室にて。俺とセラは地図を張り付けた壁の前に立っており、最終的な目的地について話し合っていた。


「………………」


 俺はふと、横に立っているセラの横顔を見つめる。


 日用品、食糧だけではなく談話室に置いてある家具もセラが持っている財産で買ったものだ。


 頭が上がらない、久々に自分が情けないと思ってしまった。ヒモになったような気分なので必ずこの恩は返そう。別にセラのためじゃない、俺の情けない気分を払拭するためだ。


「どうかしましたか?」


 セラは俺の視線に気づいてキョトンとした顔を見せる。


「話の続きをするぞ、このまま南方の国境沿いに行く」


 俺は誤魔化すように視線を地図に戻す。


 地図の中央には広大な土地を誇る魔法王国の領土が描かれてある。


「それが妥当ですわ。東にある大森林を抜けた先には小国が乱立していてほとんどが王国に従属していますからね。西には過去に大国が幾つかありましたがすでに王国が攻め滅ぼしてますし、その先の土地は荒廃している未開の地ですからね」


「選択肢がないだけとも言えるけどな。北に行けば元の場所に戻るだけだしな……」


 俺はやれやれとかぶりを振って、地図の下の方に目を向ける。続いてセラも地図の下を見る。


 魔法王国の南にある国は侵略されていない。


「南方の国々は王国との間にある幅が三〇から四〇キロある河が防波堤となっている。もう南に向かうしかない」


 俺は地図に書いてある大陸を横断する河を指差す。


「ですが、南方国家郡の中でもあの河を面している二つの国も王国の従属国家で魔道教の教えが蔓延はびこっていますわ」


「問題ない。東のアラクネ共和国と西のカラウド共和国は独裁色の強い国だ」


 俺は指を河から地図の下で見切れている二つの国に向ける。

 

「二つの国の間、つまり国境沿いの土地は独立した状態になっている」


「詳しいですわね」


「自分で言うのもなんだがある程度、地理についても勉強してきたらかな」


 俺は地図に指を差すのをやめて、セラの方を見てから、言葉を紡ぐ。


「この国の間には幾つかの都市国家が乱立している。アラクネ共和国とカラウド共和国に反旗を翻すということは、王国に反旗を翻しているのも同然だ」


かくまってくれるところ、いいえ、もしかしたらわたくし達に協力的な国があってもおかしくないですわね」


「その通りだ」


 俺はその場から離れてセラのお金で買ったソファーに座る。セラはテーブルを挟んで真向かいにあるソファーではなく俺の横に座る。


「話の続きをしたいから真向かいに座ってくれ」


「ここでも話はできますわよ」


 そう言って、セラは俺の二の腕をおもむろに両手でむにむに、と触り出す。


「ふむふむ、やはり着痩せするタイプですわね。余分な脂肪が無い……もはや筋肉の塊ですわ」


 謎に俺の上腕二頭筋を分析していた。


「おい」


「あっ」


 俺は腕を振りほどく。そして真向かいのソファーを指差し、向こうに座れと暗に伝える。


 セラはムッとした顔をした。


「ファル様がその気なら、やり方を変えますわよ」


「へぇ……どうする気だ?」


 俺は挑発気味に片眉を吊り下げる。


「誰のお金なんでしょうね」


「あ?」


 何を言っている?


「このソファーがあるのも、この二週間、ご飯を食べれたのは誰のおかげなんでしょうね」


「…………っ」


 こいつ! 痛いところ突きやがる!


「ファル様がわたくし以上の知識があるからこそ、迅速に的確な行動を取れるのは百も承知ですが、それを支えているのはわたくしの財力ですわよ」


「いい性格してるな」


 俺はチッと、舌打ちをし、


「好きにしろ、このまま話を続けるぞ」


「うふふ、やった」


 セラはごろんと倒れて俺の太ももに頭をのせやがった。


 その後、俺達は河を越える方法について話し合い、河に幾つか架かっている橋のうち『トレイシア大橋』と呼ばれる橋に向かうことにした。

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