第四三話 新たな人生の旅路

 飛空艇の周りではセラが追って来る兵士達を倒しているせいか、騒がしかったが次第に、その喧噪は静まっていく。


 決着がついたと分かった


「はぁ、すぅ――はぁ」


 俺は船の端で座り、ゆっくりと息を整えていた。


 サムエルとの戦いで体全体が負傷しているうえに体を酷使したことで尋常じゃないぐらい疲労していた。


「結局、ファルカオもサムエルも戦闘不能にするのが精一杯だったか……」


 俺を空を仰ぐ。


 まぁ、今はこれでいいか。


 王国に牙を向ける存在がいることを世界に知らせるには十分だ。


「っ!」


 俺は船の上で誰かが降り立つのを感じる。


 少し警戒して立ち上がるが足取りからして、


「はぁ、はぁ……ファル様、ただいま戻りましたわ」


 やはり、セラだった。


 顔に汗を浮かべており、明らかに疲労感を漂わせているが目立った怪我はなかった。


 彼女は膝に手をつけて呼吸を整えたあと、


「ファル様、酷い怪我ですわ。すぐに治してさしあげますからね」


 俺に駆け寄る。


「痛い痛い、痛いって」


 セラは飛びついてきた。彼女の顔はちょうど、サムエルに刺された肩の位置にある。


「傷が広がる!」


 俺はセラを振り落とす。彼女は床に上手く着地する。


「あら、照れてますわね」


「違う、痛いんだよ」


 俺は肩を擦りながら、セラの顔を凝視する。肩から流れている血が彼女の顔に付着していた。


「全く照れてないということでしょうか」


「……少しは照れている」


「アハッ、ファル様~」


 破顔したセラがまた俺に擦り寄ろうとしたので両腕を掴んで押さえる。


「それより顔に血が付いてるぞ」


「あら、本当ですわ」


 セラは顔に付いた血を懐から出した布で拭い始める。その間に俺は船首側に行き、地上を見下ろす。


 飛空艇は思った以上に王都から離れていないようだ。長い時間が経過したと錯覚してしまうほど、サムエルとの戦いが濃密だったというわけか。


「ん、増援か」


 地上に目を向けると王都から飛び出してくる兵がいた。


「雑兵ですわ」


 セラは俺の隣に立って一言、口走る。


「とはいえ、俺達は力をかなり消耗している。相手にしてられない」


「では、予定通り、城を攻撃するのですね」


 俺はセラの言葉にこくりと頷き、


「兵士共が足を止めてしまうほどの出来事を引き起こせればいい、となればあの目立つ城に大打撃を与えるのが手っ取り早いからな」


 喋りながら、両手に持った剣を頭上高く構える。


 それに合わせてセラは俺の手に両手を重ねてくる。


「頼む」


「はい……『魔力全開放』」


 セラは全魔力を体から放出し、それを俺の剣に伝わらせる。『魔力全開放』は魔法ではなく単純に体中の魔力を絞り出す技だ。


 俺の剣身はセラの魔力を纏って天高く伸びる。


 剣の幅は少し広がった程度で、とにかく剣先が魔力で伸びたような状態になっていた、それは王都の最北端の高台にある王城に届くほどだ。


「どうしたました?」


 セラは俺の顔を不安そうに見上げる。俺は魔力を纏った剣を注視していた。


「いや……知っていたが魔力って熱はあるが質量がないんだな。魔法を唱える過程で質量のあるものに変化するのは知ってるけど、俺では味わえない感覚だからな、少し感動していた」


「やっぱり魔力を扱えるようになりたいのですか?」


「そりゃあな。だが、無いものをねだりをしても仕方ない、俺は俺だからこそできる戦い方をするだけだ」


「素敵ですわ」


 セラは恍惚とした表情で見つめてきた。


「じゃあ、そろそろやるぞ」


 セラは俺の言葉に頷く。


 俺達は遙か前方に見える王城を見据える。


「堕ちろ王国」


 そう言って、剣を振り下ろす。


 王都に細長い陰影が映る。


 そして、王城に剣先が届き、


 ドオオオオオオンッ‼


 と、轟音を鳴らし、粉塵を舞い上げさせて、王城を切り崩していく。


「「‼」」


 剣が王城の中腹辺りで何かに遮られたように止まる。


「なにかしらの防御魔法を敷かれてますわね」


「まっ、予測できたことだ。魔力を消していいぞ」


 セラは俺の剣に魔力を纏わせるのを止めると、魔力は空気中に撒布されていく。


 途端にセラがふらつき始める、


「おっと」


 俺はセラが倒れないよう背中を腕で抱えた。


「生きてるか?」


「ええ、生きてますわ」


 疲れ切った表情を見せるセラだが、頬を緩ませていた。


 地上にいる兵を確認すると慌ただしく城へと戻っていた。


 王国も馬鹿じゃない、魔力の塊でできた剣が顕現された時点で兵士を動員して防御魔法を展開する準備をしたのだろう。


 とはいえ、一〇〇〇年の歴史を誇る魔法王国で王城が攻撃されることは史上初だ。


 確実に威光は落ち、各地で隠れている反乱分子も声を上げるかもしれない。


 飛空艇は飛び続け、王都は豆粒のように小さくなっていく。


 逃げ切れたな。


「立てるか?」


 未だに俺に抱えられているセラに声をかける。


「立てますけど、しばらくこのままがいいですわ」


「……別にいいが」


 俺達は王都が視界から消えるまで外を見つめていた。


「セラもこれで王国とは完全に袂を分かったな」


「構いません。わたくし達はわたくし達の道に進むだけですわ」


 セラは俺の手から離れて正面に立つ。


「そうだな……このまま突き進もうか理想を掴むまでな」


 心地よい風が頬を撫でる。


 風は新たな旅路の始まりを感じさせてくれた。

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