第三五話 もう一人の反逆者
ナナは上空から降り注ぐ光線を相殺させると、頭上に爆風が吹き荒れる。俺とナナは顔の前に腕を構えて爆風に耐える。
そして視界が開けると、
「さすがですわね、ナナ」
セラは上空から舞い降り、俺の横にやってきた。
今の彼女は黒を基調としたドレス、黒ニーソ、赤いパンプス、そして赤い宝石の首飾りを身に付けていた。
「セラフィ王女……!」
ナナは空いた口が塞がらないようだ。
「ファル様、ファルカオとの戦いお疲れ様です」
そう言ってセラは俺に飛びつく。
「戦っている最中、ずっと思ってたんだが、ファルとファルカオってややこしいよな」
「ふふっ、そうですわね」
俺は仕方なく首元にしがみついているセラを受け入れつつ、会話をした。
「…………」
怪訝な顔でナナはゆっくりと後退する。セラが王国を裏切ったという認識をしているのかしていないのかは分からないが明らかに動揺している。
「来ましたわね」
セラは一旦、俺から離れて上空に顔を向ける。そこには空中を浮遊することができる魔法『エア・ライド』で向かってくるマナがいた。
マナは俺達の目の前に降り立つ。彼女はしばらく俺と目を合わせたあと、セラの方を向く。
「何してるの……セラ」
「それはわたくしが王都やナナに攻撃したこと? それともこの状況かしら」
セラは嬉しそうに俺の腕にギュッと抱き着く。すると、マナの眉が僅かにピクリと動き、少しだけ胸に手を当てていた。
「……もちろん、攻撃したことだよ」
「強情ですわね」
セラは怪しげに微笑む。
「…………」
マナは押し黙る。
マナは今のセラを見ても大きく動揺した様子を見せていない。王国に対して攻撃したことには驚いているのかもしれないが、従来のセラは俺にしがみついたり、攻撃性を表に出すような子ではない。それにも関わらずマナは思ったより冷静だ。
もしかしたらセラがマナの本質を見抜いていたように、マナもまたセラの本質を見抜いていたのかもしれない。
「おい、今はくっつくな」
とりあえず、俺はセラの肩に触れ、彼女を押しのける。セラは不満そうに口を尖らせていた。
「セラもこの国に反旗を翻すつもりなんだ」
「その通りですわ」
「私と戦うことになるかもしれないよ」
「そしたらマナは私を殺すのかしら? 今でもわたくしはマナを親友だと思っていますわよ、そんな人と殺し合いはしたくありませんわ」
淡々と喋っているセラだが、本心ではきっと、マナとの戦いを避けたいと思っているのかもしれない。
「殺すわけ、ない! 私も親友だと思っている……!」
マナは語尾を強めて、言葉を絞り出す。
「じゃあどうするの?」
「どうするって……」
マナは戸惑いながら、口を噤む。
「ファル様といたからこそ、この国がどんなに酷いところか分かりますわよね? ……別にそれが反旗を翻した根本的な理由じゃないですけども」
「…………」
マナの無言はセラの言葉を肯定しているかのようだった。
「私は……私は……どうすれば」
マナは俯き、ぶつぶつと喋っていた。
そのとき、
「「「っ!」」」
俺達……いや、セラに向かって、上空から黄色の光線が飛んでくる。
「アハッ」
セラは笑いながら右手を前にかざして、黄色の光線を放ち、飛んでくる光線を消し去る。
飛んできた光線の出先を確認すると、近くにある建物の屋上から右手のひらを向けている黄金の将軍――レイズ・トレイシアがいた。
「クソガキが!」
「あらあら叔母様」
レイズがセラを一睨みすると、セラは口元を片手で隠してクスクスと笑った。
そのあと、レイズは建物の屋上から飛び降りて口を開く。
「正体を現したなセラフィ・トレイシア!」
「相変わらず怒りっぽいですわね……で、姪であるわたくしをどうするのですか?」
「殺す、それにクノクーノを殺したのはオマエだろ」
「その通りですわ」
「「なっ⁉」」
セラが平然とクノクーノを殺したことを肯定すると、マナとナナが驚きを露わにしていた。
「王族であるにも関わらず王室に泥を塗った罪、命で償って貰うぞ!」
「できるもんなら、やってみやがれですわ」
セラはちょっと無理して悪そうな言葉を使っていた。本性が攻撃的とはいえ育ちの良さ故の品性は抜けていない。
セラとレイズはゆっくりと歩み寄り、睨み合う。
そして、黄色の閃光が走ったかと思えば二人は互いに蹴りをぶつけ合っていた。
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