第三四話 魔法王国の天才
俺は膝をついたファルカオを見下ろす。ここでファルカオを討ち取れば王国の威光を大きく削ぐことができる。
「――っ!」
ファルカオの首を斬ろうとした瞬間、上空から人の気配を感じたので目を向ける。
「ナナ・ラファか!」
「あたしがいること忘れてた?」
飄々とした態度で白の将軍――ナナは炎を纏わせた右脚で跳び蹴りをしてきた。
「チッ」
俺は魔眼で跳び蹴りの軌道を逸らしながら、後方へと飛んだ。
「あら、マジで勝手に足が動いたんだけど~、その眼すごいね」
ナナは俺がいた場所に降り立っていた。
「ほら、お爺さんは下がって下がって」
「ぐっっ! かたじけない……!」
ナナは背後にいるファルカオの肩を叩いて後退するように促した。
すると、ファルカオは二人の部下に肩を担がれて、その場から離れる。
「次はお前が相手か」
剣の切っ先をナナに向ける。
「すごいじゃん、青の将軍に傷を付けるなんて……あたしが見る限りあれは骨までいっちゃてるね」
ナナは口端を吊り上げて喋る。
俺は向けた剣を下ろす。
「余裕そうだな」
「というより実験できるのが楽しみかな………『フレイム・エレメント』……『ウェイブ・エレメント』」
ナナは両手を前にかざして魔法を唱えると右手に炎、左手に水の塊が収束する。
その様子を見た兵士達は慌てだす。
「に、逃げろおお!」
「退避退避!」
「ナナ様のあれはやばい!」
ナナの部下である白い鎧を来た兵士達は周囲の人々に逃げるように言い、人々が逃げ惑う。
「吹き飛べ!」
視界一面を覆う炎と水の光線が向かってきて、俺に当たる直前にそれは混じり合い、
ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ
王都中に響き渡るような爆発音が鳴り響く。
「ゴホッ……ゴホッ……煙たいな……」
爆発によって辺り一帯が吹き飛び視界が煙に覆われた。もはや噴水前広場は荒地だ。
「噂通り過激な戦い方だな、だが俺に魔法は効かん」
「そんなこと知ってるし~、うらうらうらうらうらぁぁ!」
ナナは右腕と左腕を交互に突き出しながら炎と水の光線を放ち続けた。
辺り一帯に粉塵が舞い上がり続ける。
「こいつ……! 馬鹿みたいに撃ちやがって! 何が魔法王国の天才だ、脳筋の間違いだろ……!」
俺は両腕を前に構えて視界を確保し、光線を魔眼の力で捻じ曲げ続けた。
「どう凄いでしょ」
「何度も言うが俺には効かないからな!」
ナナの姿が見えなくとも空間を把握できるので、何となくナナの位置を把握し、彼女を視界に入れるために走りだす。
俺に向かって打ちこまれる光線は魔眼によって九〇度に捻じ曲がっていた。
「追いついた!」
「残念!」
ナナを目前にして剣を振るおうとすると、今まで逸らした光線が屈折して俺の方へと向かっていた。
無数の光線に気を配り、軌道を逸らすことを意識する。
その僅かな隙を狙い、ナナは後ろに下がりながら光線を発射してきた。
「まだ増やせるのかよ」
俺は呆れ気味に真っ向からくる光線を捻じ曲げる。しかし、捻じ曲げたかと思えば、屈折して向かってくる。
もう数えきれないぐらいの光線が俺を追っている。常人ならこの数の光線を把握できないが、今の俺なら出来る。だがこれ以上、増え続ければどうなるか分からない。実際、今は魔眼による遠距離の斬撃を放つことを
走りながら俺に向かってくる光線を捻じ曲げ続けると、ナナは俺と並走して光線をさらに放ってくる。
「お前! 王都を破壊するつもりか!」
「破壊するつもりの人が何言ってるのかな~? それに自分の心配しなくていいの?」
「なんだと?」
「あたし、何日でも魔法を撃ち続けられるわよ、その間、体力は持つのかしら、寝てる間でもその魔眼の効果は発揮されるのかしら……色々と楽しみね」
そう言って、ナナは片眉を吊り上げる。
「馬鹿みたいに撃ってたのは、それが狙いだったのか」
今の話ぶりからして攻撃を無効化するために攻撃を把握する必要があることは分かってないみたいだな。
「ファルだっけ? 戦いでこんなに魔法を撃つのは始めてかも、感謝しちゃお」
「余裕ぶりやがって、このまま勝てると思ってるのか?」
「思ってるけど?」
ナナの顔は腹が立つほど、得意気だった。
「そうだな……俺が一人だったら追い詰められていたのかもな――――セラァ‼」
俺は王女の名を呼ぶ、その瞬間、
「なっ!」
ナナは立ち止まって、顔を上げる。上空から黄金の光線が降り注いでいた。
「この魔力の感じ、この色の光線! まさか……セラフィ王女か!」
ナナは両腕を振り上げて、今まで放った光線を黄金の光線にぶつけて相殺させた。
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