第二四話 灯台下暗し
クノクーノ・トレイシアと複数の兵が殺される事件は王都を震撼させた。クノクーノは鳴り物入りとはいえ王国軍の最高位。騒ぎが起きない方がおかしい。
王国は威信にかけ、クノクーノ達を殺した俺を探しているらしい……クノクーノを殺したのは目の前にいる第一王女だけど。
「どうですか?」
王城にある豪華絢爛な第一王女の部屋。
その一室で俺は第一王女セラフィ・トレイシアことセラとテーブルを挟んで座っていた。まさか王国も王城に俺がいるとは思っていないだろう。
「クソほど甘いが」
俺はセラが角砂糖を一〇個ぶち込んだ紅茶を飲んでいた。
「あら? わたくしと一緒でファル様は甘いもの好きだと思ったのですか……」
尻すぼみに喋るセラ。
「好きだけど限度があるな。前までは気を遣って言わなかったが、あんたの舌は病的におかしい」
「薄々気付いていたのですが、やはりそうですか」
セラは口元に手を当てて考え込むような仕草をしたあと、
「じゃあ一緒におかしくなりませんか? ほら全部食べて」
角砂糖が入った容器を丸ごと俺に差し出していた。
「自分色に染めようとするな」
「あははっ、染めたいな~」
セラは恍惚な表情で俺を見つめながら喋る。
「やれやれ」
俺はもったいので紅茶を飲み続けた。
そのとき、扉がコンコンと叩かれ、それと同時にセラは指を鳴らして魔法を唱えた。
「『プリズム・フィルム』」
俺の体はセラの魔法で透明になった。
「入っていいですわよ」
セラが扉の向こうに声をかけると、扉が開かれ一人の侍女が入ってきた。
「お身体の調子をどうでしょうか?」
「最高ですわ」
「へっ……?」
姿が見えない俺を見て喋るセラ、首を傾げる侍女がいた。
頼むから俺の存在を匂わせないでくれよ。
「そ、そうですか。では食器をお下げしますね」
セラの様子をおかしく思いながらも侍女は俺達がいるテーブルに近づいて食器を下げる。
「誰かといたのですか?」
侍女が俺のカップを下げてながら疑問を口にする。
「ええ……大切な大事なファル様と」
セラは頬に手を当てながら洒落にならないことを言い出した。
場合によってはこの侍女を消すことになるんだが、その辺のこと分かっているのか?
「王女様……おいたわしや……幻覚まで見えてしまって……」
侍女はセラを可哀想な子を見る目で見ていた。
「王女様、その人は現在、指名手配中です。なにより出来損ないの犯罪者を大事な人と言うのは――」
「ねぇ」
「え?」
セラが相手の言葉を遮る。
「それ以上言ったら――殺しちゃうよ」
「ひっ……!」
セラが侍女に圧をかける。
「……あ、し、失礼します」
そそくさと侍女が退室していく。
それからセラは指を鳴らして俺の透明状態を解く。
「不快な気分にしてしまい申し訳ありませんわ」
セラは謝罪してくる。侍女が俺の事を出来損ないだの犯罪者だの言っていたことを指しているのだろう。
「気にしてないし、今更だ。セラも気にするな。大多数の人間がなんと言おうが、実力でねじ伏せればいい」
「アハッ……素敵な考えですわ」
言うほど素敵か? まあ……セラがニコニコしているからヨシとしよう。
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