第二二話 王女の選択①
さすがにセラが俺のことを殺しにきたと思ってないが、俺が今まで本音を隠して生きてきたように、セラの本音も分からない。
だから俺はハッキリと殺しにきたんだろうと尋ねたが、
「そんなことありえませんわ、絶対にっ」
セラは悲壮な顔で首を横に振った。
「じゃあその杖はなんだ」
セラは右手に六〇センチ弱の杖を持っていた。杖がなくても魔法は発動できるが、杖を媒介とすれば魔法の発動が速くなったり威力が増したりする。杖の材質によって副次的な効果が追加される。
「これはファル様を助けるためのものですわ!」
セラは杖を横にして、両手で持って見せつけてくる。
「これで攻撃しようだとかは思っていません……こんなもの!」
え? なんとセラは杖を思いっきり地面に叩きつけて捨てた。
「……捨てる必要ある?」
「それもそうですわね……」
セラは捨てた杖を拾った。
セラの情緒がおかしい気がする。さっきまでの俺もそうだったから人のことは言えないが。
「俺を助けると言ったな、全国民から狙われてる俺をどうやって助けるというんだ。無茶を言うな」
というか無茶をするな。
「わ、わたくしにはファル様も知っているあの魔法がありますわ」
自信なさげに喋るセラ。
「ああ……確かに身を隠せるが持続時間には限りがあるだろ。しかもあれは魔法の発動者の近くにいる必要がある」
セラの言うあの魔法というのは俺とマナしか知らない彼女が独自に開発した魔法――『プリズム・フィルム』のことである。
彼女の魔法属性は三つ。俺以外の誰もが持つ『無属性魔法』、殺傷能力が高く多くの兵士が有する『風属性魔法』、そして現代において二人しか有してない『光属性魔法』の三つだ。
彼女が開発した『プリズム・フィルム』というのは『風属性魔法』と『光属性魔法』を複合させた魔法らしい。なんでも風の膜を展開して、膜の内側から光を拡散することで、膜の内側にいる人や物体を透明にするという。
この魔法で彼女は他の王族に気付かれることなく自由自在に禁書を取り出すことができたらしい。
「ファル様を透明にしているあいだその……わたくしがレーヴォック王を説得してなんとか指名手配を取り下げるとか……」
「それでレーヴォックが納得すると本気で思っているのか? それに見て分かるだろ。俺はもう王国の兵を何人も殺してる、レーヴォックの娘の言葉といえど、そんなことで指名手配が取り下げられるわけがない」
「…………」
セラは押し黙る。彼女自身も稚拙な考えだとは思っていたのだろう。
「仮に俺が兵を殺してなくても、レーヴォックの考えは変わらないだろう。あいつらは俺を庇っていたティル・ファインハーゼを殺した。一〇〇年前、この国は、今の俺と同じように魔力量がゼロで魔眼に目覚めたアーバス・ゼルチという男を殺した。この一〇〇〇年で魔道教の腐った理念が浸透している以上、説得は無意味だ」
「やっぱりその目は魔眼……」
セラは尻すぼみに俺の目を気にしたようなことを言っていた。『因果律無効の魔眼』を知っているのかもしれない。
「俺達は言葉にこそしなかったが心の中で分かっていたはずだ。この国に俺の居場所が無いってことを」
「この国にファル様の居場所は……」
口ごもるセラ。
「まっ、とにかく俺が王都に戻れば無事で済むわけない。この魔眼のおかげで殺されることも負けることはないかもしれないが、王都に戻るのは俺に死ねって言ってるような――」
「そんなつもりで言ったわけじゃありませんわ!」
セラが俺の言葉を遮って感情を露わにしていた。
「そうかもな、そう信じたいが、俺らは互いに心の中は読めない。真意など分からない。この国の王族として生を受け、この国で教育を受けているセラの根底にある価値観はもしかしたら他の連中と一緒かもしれない。だからって俺はお前に刃を向けることはな――」
「一緒にしないで」
「っ」
俺は少し目を見開く、セラの声は震えていたが真摯な眼差しを向けていた。その瞳から怒りを感じた。
「どうして、そんな酷いこと言うの、ファル様なら分かってくださいますわよね?」
セラは胸の前で右拳をグッと握って尋ねてくる。
「どうしたセラ……らしくないぞ」
セラの瞳の奥からは何故かドス黒い闇を感じた。
「ファル様のおかげでわたくしは誰にも惑わされることがなく生きてこれたんですよ?」
そう言ってセラは距離をゆっくりと詰めて近づいてきた。
何を言っている、何のことだ?
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