第二一話 大将軍を追い詰めた②
「人を殺そうとしといて助けを乞うのは虫がよすぎると思わないのか?」
俺はクノクーノの顔面を全力で踏みつけようとする。
「ぐぅぇ‼」
クノクーノは俺の足を避けようとするが右頬辺りを踏まれて
「こ、こうするしかなっかたんで
俺に踏まれてるせいで上手く喋れないクノクーノ。
「何言ってんだ……権力が欲しいのはお前個人の欲だろ。そんなことで殺される俺の身になって考えてみろ、
「で、でも、ま、魔道教の教皇直々に殺してこいと言われたんで
断わるつもりなかったくせに。
「し、死にたくない……!」
クノクーノは涙を目尻に溜める。
哀れだとは思わないし、許すつもりはないが、俺は一旦、足を離した。
「はぁ……はぁ……はぁ!」
顔の自由を取り戻したクノクーノは懸命に息を吸っているが、
「うがっ!」
俺はお腹を踏みつけて、ロングソードの切っ先を首に当てた。
「わ、私を可哀想だとは思わないのかね。お前も私と同じ立場になればきっと同じことをするはずだ」
俺はつい顔を引き
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺からすれば、権力目当てに命を狙いにきた敵が現れたのが事実で、その敵を
「た……頼むっ、見逃してくれないかね……」
クノクーノは悲壮な顔で懇願してくる。
こいつには聞きたいことがあるから一旦、許したフリをしよう。
「まあいい、俺の質問に答えてくれたら見逃してやる」
「ひぃ!」
俺は剣の切っ先で相手の首を軽くトントンと、叩くとクノクーノは悲鳴を上げた。
「学園の状況はどうなってる?」
「きゅ、休校中だ。お金で釣ってお前を殺すように校長が煽ってる」
改めて思うととんでもない学校だな。
「前校長のティル・ファインハーゼは今の校長――ラクエル・ランブルが殺したと聞いたがそれは確かか?」
「っ…………そうだ」
言い淀みながらも、俺の言葉を肯定した。
「き、聞きたいことはそれだけか?」
とりあえず、「ああ」と言って頷いた。
「ところで私からも質問いいかね?」
「は?」
「ひぃ! み、見逃してくれるんだろう!」
俺が一睨みするとクノクーノは怯えた。
「で、質問ってのはなんだ?」
「あ、貴方に攻撃が通じないのってその色が変わった眼のおかげです……かね?」
探りを入れにきてた。
「そうだ」
「そ、そんな力を隠し持ってたなんで凄いですね」
褒め方が雑だな。
「そうか?」
適当に答えてやった。
「その、どうやったら貴方様に攻撃が通じるようになるんでしょうかね……へへへ、なんて教えてくれるわけないですよね、あははは」
すっかり三下となったクノクーノは作り笑顔を浮かべていた。
普通に弱点を見つけてこようとしてるな。
「あーそうだなあー……こうやって左目を閉じると攻撃が通じたりする」
俺は嘘を吐いて左目を閉じる。左目が七色である限り、異能の力は発動する。
「へぇー、そ、そうなんですね……そのまま目を閉じていてくださいね」
「え? なんで?」
俺はとぼけたフリをしつつ、クノクーノが不自然に動かした目を見逃さなかった。
「い、いやあ!
「何言ってんだこいつ」
クノクーノが頭おかしいことを言うので突っ込む。
そのとき、後方から何者かが俺の背中を斬りつけようとするが、左目を閉じながらも気を張っていた俺は魔眼の力で斬撃を無効化にする。
「あ、あれ⁉」
背後からは驚き戸惑う声。
「――――まあ、そんなことだろうとは思ってたんだよ!」
語尾を強めながら後方から密かに近づいて、俺を斬ろうとしていたキリゲをぶん殴る
「ぐぶえはっ!」
キリゲは地面に背中を打ちつけて倒れ、殴られた鼻を押さえる。
「いた、痛いっ! は、鼻が……鼻が曲がってるでやんす!」
当然、近くにいるトルグとキリゲに注意を払ってた。クノクーノが目で近くにいる誰かに合図を送ったのにも気付いた。
「う、うあああああ!」
トルグは相変わらずパニック状態だったが、いつもつるんでいるキリゲが殴られて目を覚ましたのか急に背を向けて逃げ出した。
「ま、待つでやんすううう!」
そしてキリゲもトルグの後を追って逃げる。
俺は昨日のあいつらの言葉を思い出す――
『うひひっ! ゴミムシの分際でこのトルグ様に勝てると思ってんのか?』
『こいつ馬鹿でやんす! 馬鹿でやんす!』
――とんだ変わりっぷりだな。相手が強いと分かれば態度を一八〇度変えやがった。
俺は後ろを振り返り、逃げるトルグとキリゲの背中を見つめる。
「くっ! この私を騙しやがったなああああ!」
肩越しにクノクーノがいた場所を見ると、彼は捨て台詞を吐きながら全力で逃げていた。
「何が目を閉じたら攻撃が通じるだ! このペンテ師が!」
「はぁ」
俺は溜息を吐きながら、半身で構えて剣の切っ先をクノクーノに向ける。
確か、『因果律無効の魔眼』は伝承では遠い距離にいた者にも剣筋が届いた描写があった。
考えてみればそうだ。防御や回避しても剣の攻撃が通じることを考えれば距離は関係ない。この魔眼が発現してから大して時間は経っていないが、この異能を扱うにあたって大事なのはおそらく――
自分を中心とした空間を認識すること、そして攻撃を無効化したり、攻撃を届かせる意思が大事だ
俺はクノクーノの背中目掛けて、本気で体を突くつもりで剣を突き出す。
「――――ぐはああっ!」
離れた距離にいるクノクーノは倒れて、吐血する。
鎧の下から血が滴るのが見える。
「はぁはぁ……な……ぜ」
クノクーノは必死に呼吸をしながら近づいてくる俺を注視する。
「終わりだクノクーノ」
俺は今度こそクノクーノに止めを刺すために剣を向ける。
「安心しろ一瞬であの世に……ん?」
「…………」
死んだか? 一応、クノクーノの呼吸を確認しよう。
「まだ息があるな……気絶しただけか」
もうクノクーノに逃げられることはない、安心して止めを刺せるが、俺は前方から近づいて来る足音を聞いて手を止める。
「護衛も付けずに王都の外に出るのは不用心だな……」
俺は顔を上げずに近づいてきた人物に話しかける。
「ファル様……なのですか……?」
セラの声だ。なんとなく足音で誰か分かっていた。
第一王女が王都の外に簡単に出れるはずがない。
禁書を誰にも気づかれず持ってきたときのように、彼女が独自に開発したあの魔法を使って移動してきたに違いない。
「なぜ来た」
「だって……だってファル様が退学で、指名手配されていて」
「俺なら無事だ」
「……俺」
セラは俺の一人称が変わっていることが気になっていた。いや口調も気になっているはずだ。
「それとも俺を殺しにきたのか?」
「っ! そんなわけ!」
俺は顔を上げながら喋る。そこには雨が降っているのにも関わらず、傘を差していないセラがいた。
彼女は俺の左目を見ると目を見開き、そのあとすぐに悲しそうな顔をした。
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