第一九話 この国に未来は無い

 俺が三人の兵を斬り倒したのを目の当たりにしたクノクーノは間の抜けた顔をしていた。


「……ええい、こんなゴミ相手に何をやっているのかね!」


 少しして、クノクーノは口元をわなわなと震わせて怒鳴る。彼の心情は驚きから怒りへと変化したようだ。


「クノクーノ!」


「私を呼び捨てにするな!」


 今更あんたに礼儀を払うわけないだろ。


「王の妹に婿入りして今の地位を手に入れたからこそ、あんたは貴族や他の武官共から風当たりを強いのを感じてる! なら、力が無いものの気持ちが分かるはずだ」


「お……」


 クノクーノは俺の発言で言葉を詰まらせ、


「お前と一緒にするなああ!」


 さらに怒気を放った。


 もう駄目だこいつ……権力への妄執に囚われている。


「まあ……言い聞かせられるとは思ってなかったがな。去年、東の大森林に住むエルフ族を虐殺するために遠征しにいったお前に同情心を求めた俺がマヌケだった」


 かつてトレイシア魔王王国の東にある大森林には多くのエルフが住んでおり、魔法王国とエルフはセラの働きによって同盟関係を結んでたのにも関わらず、去年、進軍をした。しかも、抵抗してこないように魔王王国に留学していたエルフの族長の娘を人質にしていた。


「あの遠征は王からの勅命だ。魔道教の経典にのっとったまで! 落ちこぼれのお前でも知っているだろ」


「良く知っているさ、『魔法は自身の力で行使して至高であり、他者や道具の力を借りるのは邪道である』、このくだらない経典のせいでエルフ達は死んだ」


「あいつらが精霊という存在から力を借りて魔法を行使する種族というのが悪いのだがね」


 最初からエルフを悪と見なすなら、なんで同盟なんか組んだんだ。なんで留学生まで受け入れてたんだ。どうせ領土や資源やらが欲しいから最初はいい顔して、王国が魔道教の経典を利用して攻めたんだろ。


 ほんと、どうしようもない国だ。


「あんたらの言い分だと、エルフは生まれてきたこと自体が悪いみたいに聞こえる。あまりにも理不尽だ、だが不幸なことに王国は力を持っているから他者に理不尽を強いて利益を得ることができる。世が弱肉強食と言うのなら、俺がこの国を捻じ伏せてやるよ。その第一歩としてあんたらを討つ」


 俺は肩を落とし、淡々と宣言をする。


「生意気を言いおって。あいつの眼だ! 急に色がおかしくなったあいつの眼のせいで不思議な力を発揮しているに違いない。身体能力を強化し、周りを囲んで攻めるんだ!」


 クノクーノは五人の兵達に指示をすると、兵達は俺の間合いに入らないようにしつつ、囲もうとしながら『フィジカルアップ』を唱える。


 さっきの戦闘で視界外の攻撃を無効化したのに気付いてないのか? すぐには分からないのかもしれない。だとすれば、クノクーノは状況を把握できてない。将軍の器じゃない。


 だが、『フィジカルアップ』を唱えさせるあたり、やはり、魔法は通じないことは分かり始めているみたいだ。


 兵達に取り囲まれている中、俺は空を見上げ、顔に雨を受ける。


「今日の天気は最悪だ」


 俺の発言で周囲の兵が困惑しているように見える。にしても周りの兵は妙に若いな。若き精鋭といったところだろうか? そんな存在聞いたことはないが。


 引き続き俺は独りでに喋る。


「こんな鬱屈とした気分になってしまう日はあんたらが死ぬのに相応ふさわしいな」


 顔を下ろし、正面にいる兵を見据える。


「やってしまえ!」


 クノクーノのかけ声と共に兵達は斬りかかってきた。

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