第一八話 意味があった日々だった
お金目的で俺の命を狙う、王城の兵士共は、
「「「『エア・スラッシュ』」」」
風の刃を放つ魔法を唱える。
俺はその攻撃を意に介さず、剣を構えたまま突っ込む。そして、
「なっ⁉」「消えた? いやすり抜けたのか⁉」「は⁉」
三人の兵士は驚きを口にする。あいつらが放った風魔法は俺を傷つけることなく、通り過ぎたり俺を独りでに避けていた。
その間、俺は一人の兵士の前に迫り、得物を振り上げる。
相対する兵士は急いで抜刀するが、得物を顔の前に構えて防御するのが精一杯なようだ。
「落ちこぼれの癖に――ぐが、あっ⁉⁉」
俺は全力で剣を振り下げた。すると、相手は防御に使った得物ごと、顔面に武器がめり込んでいた。
今まで培ってきた
実戦でやるのには勇気がいる一振りだ。防御することを考慮していないので、攻撃を避けられたり受け止められれば、死が待っているので迷いが生まれ、必殺の一撃を生み出せない。だが今の俺は『因果律無効の魔眼』によって、あらゆる攻撃を無効化にできるため、迷いの無い必殺の一撃を繰り出せる。
俺の攻撃は受けた兵士は仰向けに倒れる。二度と起きることはないだろう。
残った二人の兵士は唖然としていたが俺自身も、目を見開いて驚いてしまった。
真剣かつ人相手に全力の一撃を放ったことはなかったがまさかガードごと相手を捻じ伏せることができるとは思わなかった。
俺が培ってきた力。魔法に頼ってない純粋なまでの力技。
「クックッ……」
俺は口元を押さえて笑いを零す。
「ハハハ……ハーハッハッハッハッ‼」
それから俺は天を仰いで
「なんだよ、なんだそれ、意味があった、意味があるじゃねえか!」
愚直に剣を振るってきた努力が報われた。
目に見える成果があった。
俺のテンションはより高まる。
「なんだあいつの剣技は⁉」
「きょ、きょ、強化魔法だ!」
残った二人の兵士は俺は挟んだ位置で会話をし、
「「『フィジカルアップ・サード』!」」
身体能力を三倍にする魔法を唱えた。彼らは白いオーラに包まれる。
ここからが大事だ。俺は身体能力を強化できないので、フィジカルは明確に相手の方が上になる。
昨日、『フィジカルアップ・サード』を唱えたトルグとキリゲのスピードに追い付かれずボコボコにされたのがいい例だ。
だが今は『因果律無効の魔眼』があるうえに、必殺ともいえる一撃を臆することなく放つことができる。
俺は再び、剣を上段に構えた。魔法は効かないと思った相手もそれぞれ武器を手に取り、接近戦を挑んでくるみたいだった。
降っている雨がより強くなったあと――
「「死ねっ!」」
――両側にいる相手は同時に俺を斬りこんでくる。
物理攻撃なら効くと思ったのだろうが? さっきトルグが俺に斬りかかったにも関わらず、武器の切っ先が届かなかったのを見ていたはずだが……いや、あの一撃だけでは物理攻撃も俺に効かないと分からなかったのかもしれない。
もしくは俺を挟んで一人が視界外から攻撃すれば、攻撃が通じるのかもしれないと思ったのかもしれない。
いい考えだが、この魔眼は視界外からの攻撃にも対応できる。無論、俺が視界外の攻撃を把握する必要はあるが。
俺は首を振って両側にいる敵を一瞬、確認し、
「「っ!」」
一人の敵から振るわれた得物を受け止めて
「あれ⁉」
敵は素っ頓狂な声を出して、振るった得物を勢いのまま地面に叩きつけていた。
確かに身体能力を強化した相手の動きには対応できないが、見えない敵の攻撃を把握し、『因果律無効の魔眼』を発動することで視界外の攻撃を無効化できる。この芸当はもしかしたら眼と共に覚醒した脳のおかげでできているのかもしれない。
多対一になれば、三六〇度にいる相手の動きを把握しなければならない……中々、苦労しそうだ。
だが、今まで一方的にやられ、辛酸をなめる日々を送っていた俺からすれば、そんな苦労も望むところだ。
背後から素っ頓狂な声を聞いた俺はわざと鍔迫り合いをしている剣から手を離して、剣を地面に落とす。
「うわっ⁉」
鍔迫り合いをしていた相手は前のめりにこけようとするが、俺は全力で顔面に右ストレートをくらわす。
「ぐあぶっ!」
相手は仰向けに倒れて鼻を押さえた。その間、背後にいる敵は滅多やたらに背中に斬りかかっていたが、
「当たらない当たらない当たらない! なんでなんでなんで!」
敵の攻撃は宙を斬っていた。それから俺は地面に落ちた剣を拾って、振り向きざまに背後にいる敵を斬る。
「ぐうぇ⁉」
相手は驚愕した表情のまま首を横一文字に斬られて横たわる。
「おかしいおかしいおかしい!」
先程、殴った敵は文句を言いながら立ち上がっており、俺は即座に相手の目の前に迫った。
相手は武器を横薙ぎに振るったが、それは魔眼の力のおかげで俺に届くことはなく、俺に難無く斬り倒された。『フィジカルアップ』は身体能力を上げ、その強化に耐えうる強度を体に施すが、刃物が通じなくなるわけではない。俺の一撃には耐えれない。
「こんなことがありえるのかね……」
と、クノクーノは尻すぼみに喋っていた。
さてこの光景を見て、相手はどう出るのだろうか。クノクーノ自身は鳴り物入りだが、あいつが連れて来た兵士は玄人なはずだ。今の兵士のように簡単にいかないかもしれない。
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