第一五話 因果律無効の魔眼②
一呼吸し、俺は口を開く。
「確かに、この世界はろくでもない連中だらけだ。だけど、それはきっと魔力を持っている人間、全員じゃない」
そんなことを言うと、老人は目を見開いて、言葉を返してくる。
「本当は全員殺したいだろ! 見てたぞお前を虐げてた貴族の子息を! この国で育ち、教育されたものの価値観は変わらぬ、生きていても弱き者の害になるだけだ、なら殲滅せよ! 魔力が無く、お前に賛同する者のみを集めて世界を変えろ!」
老人は拳を振り上げて、熱がこもった言葉を発する。
「確かに多くの連中は俺にとっては害でしかない。だが、なんでもかんでも手にかけては虐殺だ」
「綺麗ごとで世界は救えん! そんなことは知っているはずだ!」
老人はさらに口調を強める。
その気持ちには共感できる。心が痛いほどに。
相手の気持ちに応じて、俺も熱をこめて喋ろう。
「虐殺だけで成り立つ世界じゃない……世界を変えたないなら殲滅すべきはもっと上の立場にいる人間だ! この歪んだ世界の中心にいる人間共! 俺を邪険に扱う人間を一人残らず手にかければ、それは俺にとって都合の良い世界なのかもしれない! だがそんな人間に人が付いて来るのか⁉ 堂々巡りだ。仮に数百年は平和になっても今度は魔力を持つ連中が復讐するかもしれない!」
ただの予測だ。魔力を持ちを殲滅したら永遠に平和な世界になるかもしれない。
どっちにしろ先のことは分からない。
今、相対している殲滅の思想を持つ老人はすでに亡霊で革命は失敗した後だ。
生きている俺は俺の意思に従う。
「無差別に敵の殲滅はしない、俺はお前とは違う」
俺は腰に携えているロングソードを抜刀し、切っ先を向けて宣言する。
「そんな中途半端な覚悟で世界を変えれるわけないだろ!」
老人は声を荒げる。
「……不思議な気分だ。本音で語るというのは、僕は……いやもう止めよう」
そんな老人をよそに俺は独り言を言うと、老人は怪訝な顔をする。
「俺は無差別な虐殺はしないだけだ。当然、立ち塞がる敵は殺す」
「……お前、さっきから雰囲気が……」
老人は何か言いたげだった。
確かに俺の雰囲気は荒々しくなってきているのかもしれない、
俺は思いの丈を語ることにした。
「虐げられ、軽んじられ、抵抗もできずに、悔いる日々だった! それでも俺は前に進み続けた、いつか何かを手に入れるために、抽象的で素敵なものを掴むためにな! もう俺は俺の衝動を止めない、ただこの力を持って理想に進むのみだ。クックッ……ハッハッハッハッ!」
俺は顔を上げて笑う。
本音を曝け出したことで高揚感に酔っていた。
今まで偽りの仮面を被り過ごしてたわけではない。ただ、心の中に眠る言葉を曝け出した。
「我とは意見が違うな、魔力持ちを全て殺す。それが我の……我々の願いだ! 偉く気分が良さそうだがその魔眼がなんの能力かも分からないのによくほざけたものだ! その魔眼の持つ力を認識できなければ、魔眼の力は発動できぬ!」
そう言いながら老人は右手を上げる。
「同胞よ! 目覚めて敵を倒せ!」
老人の背後にある死体の山から槍を持った女性が這って出てくる。
あれは魔法王国に反抗した老人の仲間というわけか。
「ウゥゥ……」
女性は唸り声を上げて槍を投げようとしてくる。
顔が青白い……見たことはないがあれは噂に聞くゾンビか?
「っ⁉」
女性の正体について当たりをつけていると、女性が構えた槍に電撃が
「あれは魔道具か」
あの槍は魔道具――魔法属性が付与されている道具だ。あの槍は見るからに『雷属性魔法』を宿している。
魔法王国は魔道教の経典に載っている『魔法は自身の力で行使するのが至高であり、他者や道具の力を借りるのは邪道である』という文言を盾にして、王家が魔道具や魔法の力がこめられた呪文書を独占しているので、実際に見るのは始めてだった。
「ウガアアアア!」
女性が唸り声を上げながら、電撃を纏った槍を放つ!
槍は空間を裂きながらバチバチと音を立てて、俺の方へと飛んできた。
瞬きをする間に槍は俺を貫こうとしていたが――
「なっ、馬鹿な⁉」
――老人が驚嘆の声を上げる
無理もない槍に貫かれるはずの俺は無傷で、槍は俺の背後で転がっているのだから。
「クックッ……」
俺は額を押さえて冷笑する。
「言っただろ勉強はしてきたって、人の力を借りて禁書を読んでたから偉そうに言えたものじゃないが」
「まさか、その魔眼の力を知っているのか!」
「この七色の魔眼はかつて存在していた異種族の王が携えたと言われている。『因果律無効の魔眼』、それが俺の魔眼だ」
手鏡で魔眼を確認した瞬間から俺はこの魔眼がどういう力を保有しているのかが分かっていた。八〇〇年前の伝承でしかないと思ったが今ので『因果律無効の魔眼』であることを確信した。
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