第三話 学園での最後の昼食②

 僕は今にも文句を言いそうなマナに声をかける。


「来るのが遅かったね」


「君達が早すぎるんだよ」


 僕の言葉にマナは口を尖らせていた。先に二人で食事をしていたことが不服なようだ。三人で一緒に食べ始めたかったのだろう。とは言っても、このやり取りはこれまでに幾度としてきたので挨拶代わりのやり取りではある。


 マナはセラに話しかける。


「セラ、今日のパンは何?」


「クルミパンです」


「えー、普段は味わえない、もっとこうジャンキーな食べ物がいいな」


 文句を言いながらもマナはセラのバスケットに手を入れてパンを取る。そして、セラとは反対側――僕の横に座る。


「もしかしてファル君、元気ない?」


 マナは僕の顔を覗き込む。


「それは……猫に頭が悪いと思われたからですよ」


 本当は退学処分を食らったからなんて言えない。マナの祖父とセラの父親が僕を退学にしたと知られれば、彼女らがどういう行動を取るのかが分からない、心配をかけたくなかった。


「猫に⁉ どゆこと⁉」


 マナは僕の発言のせいで目を見開き、


「ふふっ、それはですね――」


 愉快そうな顔で事情を説明するセラ。


 楽しいこの時間も今日で終わりだ。


 僕はこれからどうなるんだろう。


 マナはパンを食べ終わると立ち上がり、


「教室に戻ろっ」


 僕を移動するように促す。


「僕はまだしばらくここにいるよ」


「でもファル君一人だと、皆に……」


 言葉を詰まらせるマナ。


 教皇の孫であるマナと王女であるセラと行動している間は他の生徒に嫌がらせや悪口を言われない。そのことは二人も知っていた。だから一緒に行動してくれる。だけど、それは僕自身になんの力もないということを表わしている。悔しくてたまらない事実だ。もちろん二人には感謝してる。


「ですが……」


 セラも不安な面持ちだ。


「僕なら大丈夫です。教室に戻るだけですよ? 何かあれば奇声を上げて、周囲の人に頭おかしいと思わせて僕に近づけないようにさせるので大丈夫ですよ」


 強がって、おどけてみせた。


「あはは、そっか! ……うん! ファル君、また後でね!」


 マナは吹き出しながら、僕の意思を汲んでくれた。


「ファル様、明日も一緒にご飯を食べましょう」


 セラは相変わらず不安そうな顔するが、マナが移動するように目線で合図を送っていたので、立ち上がる。


 明日からは学園に僕の居場所が無くなる。セラの言葉に応じられない事実に心がキュッと、痛む。


「私達は知っているからね、ファル君がどれだけ努力しているか、強い心持っているか、だから周りに惑わされないでね」


 マナは中庭の地面に打ちつけられたボロボロの木の幹を見る。その周りに幾つもの幹が転がっている。


 魔力がない僕は一日五〇〇〇回、学園での授業が終わって約七時間、木剣を幹に打ち付けていた。


 ただ、魔法至上主義のこの国では魔力を使わない攻撃は評価されない、貴族学園にも魔力を使わない実技科目などない。


 それでも、剣を振り続けずにはいられなかった。こんな僕でも強みを得たいと思った。前校長にはいつか形になると信じて自分の道を突き進むしかないと言われたから頑張れた。


「ファル様はすっごく勉強も頑張っていますから、この国に必要な人になりますよ」


 セラも僕を励ましてくれた。


 将来役立つと思い、学園が休みの日や寝る前は机と向かい合って政治、軍事、経済、歴史等について独学で学んでいた、この二人の隣を胸を張って歩けるように。


 また、ある日から王女であるセラが閲覧を禁止にされている書物――禁書を持ってきてくれたので様々な知識を得ることもできた。


「ありがとう二人とも」


 僕は二人に感謝告げつつも、退学が決まっているため、なんの意味もない努力だったのではないのかと思ってしまった。


 二人が中庭から去ったあと、僕はうつむき、ぼーっとしてしまった。何も考えたくなかった。

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