第二話 学園での最後の昼食①
中庭で待っててくれた少女を見て固まってしまう。彼女と共に昼食を摂るのを
「お体の調子が悪いのですか?」
少女は心配そうに声をかけてくれる。
「い、いや、大丈夫だよ。ははは……」
乾いた声を出しながら少女の隣に座る。
少女の名前はセラフィ・トレイシア、僕はセラと呼んでいる。このトレイシア魔法王国の第一王女で一歳年下の一七歳だ。
青い目、腰まで届くハニーブロンド色の髪にハーフツインの髪型。くわえて、玉のように美しい肌、華奢な体で小柄だが盛り上がった胸の双丘。魔法の使い手としての実力もさることながらその可愛らしい容貌と相まって『魔法王国の至宝』と呼ばれている。
王家傍系の養子でありながら魔力が無い僕と仲良くしてくれる数少ない人物だ。
セラの父親である国王は僕を退学処分にした人間の一人であるため、彼女を見て固まってしまった。……彼女自身は何も悪くないのに。それに、セラは魔道教が宗教上の理由で嫌うエルフに対して交流を働きかけ、王国領土の東にある大森林に住むエルフを貴族学園で留学生として受け入れる体制を作るという、魔道教に依存している国の人間とは思えない行動をした人物でもある。
もっとも……国王のせいで去年を境に、この国からエルフの姿は消えたが。
セラの横にはバスケットが置いてあり、そこからクルミが入ったパンを取り出していた。僕も揚げパンが入った袋を開けて食事を始める。
「セラ、僕は僕を殴りたい気分だよ」
「突然、どうしたの⁉」
セラと一緒に食事を摂ることを躊躇った僕は忸怩たる思いだった。親は親で子は子だ。同一視するわけにはいかない。
少し間を置いて、セラは喋る。
「相変わらず、ファル様は面白いですわ」
セラはおしとやかに笑う。
「今の心情を語っただけだよ」
僕は呆れ気味に言葉を返した。
数少ない気心を許せる人物。普段は除け者にされている僕も彼女と話すときは、ある程度、自分の素を出せる気がする。
僕達は昼食を摂りながら会話を始める。
「昨日、魚屋に行ったら、猫が魚を盗んでたんだ。僕はこういうこともあるのかって思って傍観してたんだけど、その猫としばらく目が合ったかと思えば、僕の前に魚を置いたんだよ」
「まぁ、変わったお猫さんですね」
セラは口に手を当てて、驚嘆する。
「魚を食べると頭が良くなるって言うだろ、もしかしたら、あの猫は僕が馬鹿そうに見えたのかもしれない」
正直、自分でも意味不明なことを言っているなとは思ったけど、考えるより先に喋っていたので喋るのを止められなかった。
「ふふ、お猫さんは勘違いしてますよ。だってファル様は賢いのですから」
セラは僕の話を聞いてて楽しそうだった。僕が賢いかはさておき、さり気なくフォローしてくれるセラは優しい子だなと改めて思った。
「――あー! 二人とも食べ終わっている!」
中庭に現れる少女。彼女は僕が気心を許せるもう一人の人物だ。
彼女の名前はマナベルク・レストナーク、僕はマナと呼んでいる。魔道教、教皇の孫娘で僕の同級生でもある。
ピンク色の目、肩に毛先が届く髪は明るい赤紫色。育ちの良さと発育の良さが相まって艶やかな雰囲気を身に
そして、教皇の孫娘であるにも関わらず、僕に話しかけてくれる奇特な人物だ。アルスター家に感謝することがあれば、王家傍系の養子となったことで身分が高くも奢ることもしない、心優しい二人の少女と知り合えたことだ。
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