マイナスイオンに科学的根拠はない

マイナスイオンとは、空気中に存在する電気的に帯電した粒子のことです。電子を得てマイナスになった原子や分子がマイナスイオンになります。しかし、この定義はあいまいで、どのようにしてマイナスイオンができたか、どんな種類のマイナスイオンかによっても違います 。


例えば、以下のような方法でマイナスイオンを作ることができます。


水破砕: 水が勢いよく流れたり、滝や波などで砕けたりするときに、水分子が分離してマイナスイオンが発生します 。

コロナ放電: 電極間に高電圧をかけると、空気中の分子が電子を得てマイナスイオンが発生します 。空気清浄機やドライヤーなどに使われています。

トルマリン: 天然の鉱物で、圧力や温度の変化によって電気を発生させる性質があります 。その際にマイナスイオンも発生します。アクセサリーや衣類などに使われています。

放射性物質: 原子核が崩壊して放射線を出すときに、空気中の分子が電子を得てマイナスイオンが発生します 。ラジウムやトリウムなどの元素が含まれる鉱物や岩石に使われています。


これらの方法では、それぞれ違う種類や量のマイナスイオンができます。例えば、水破砕では主に酸素のマイナスイオン(O2-)ができますが、コロナ放電では窒素や二酸化炭素などのマイナスイオン(N2-、CO3-)もできます 。また、水破砕では数万個から数十万個のマイナスイオンが1立方センチメートルあたり発生しますが、コロナ放電では数千個から数万個程度です 。


マイナスイオンが人体に良い効果を与えるという考えは、1938年に出版された「医学領域 空気イオンの理論と実際」という本に由来しています 。この本では、空気中のマイナスイオンは神経系や内分泌系などに影響を与えて、血圧や呼吸などを調整し、ストレスや不眠などを改善すると主張しています。


しかし、この本は科学的な根拠に欠けるという批判があります。まず、この本は古くて入手困難であり、その内容も曖昧で不正確です。例えば、空気中のマイナスイオンの量を測定する方法や単位が明確ではありません。また、この本は人体に影響を与えるのはマイナスイオンだけであるとしていますが、実際にはプラスイオンや中性粒子なども存在しています。さらに、この本はマイナスイオンの効果を実験で検証していないので、客観的な証拠がありません。


その後の研究でも、マイナスイオンの健康効果は十分に立証されていないというのが一般的な見解です 。欧米では、マイナスイオンの研究はコロナ放電に限られており、その効果も微生物を殺菌する程度であるとされています 。日本では、水破砕やトルマリンなどのマイナスイオンに関する研究も行われていますが、その結果は一貫しておらず、信頼性や再現性に問題があります 。また、マイナスイオンの効果には個人差や環境要因なども影響する可能性があります 。


つまり、マイナスイオンには科学的根拠がないと言えます。マイナスイオンは大気電気学の専門用語ではなく、日常語であるということを忘れてはなりません 。マイナスイオンのブームは、健康や快適さを謳う商業的な利用によって起こったものです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る