第19話 友達になっちゃくれねぇか
「じゃーん! 今日集まってもらったのは、私の家にお客さんが来てくれたからなんだよね! 新居に! 初めての! お客さん! それを自慢&お披露目しちゃおうってわけ!」
画面の中でリリカナの笑顔がはじける。
“テンションうぜぇwww”
“第一声から要件いうなよ。挨拶どうした”
“ただでさえ少ない視聴者ほとんど集まってませんよポンコツ”
と言いつつも、訓練された
リリカナが何をするにも突然なのはいつもの事である。どうせ近所で拾ってきたザリガニでも披露するのだろうと思った。
“(自称)ダンジョン内の新居にお客さん(笑)”
“モグラか冬眠中のカエルか……”
“セミの幼虫かもしれんぞ”
“春はまだ遠い。掘りだしちゃ可哀そうだってお母さんに教わらなかったのか”
「ちーがう! ちゃんと人? だよ! みんなも見てみたらわかるよ。――だからほらほら、こっち来て来て」
とリリカナのアバターが端に寄って止まった。中のひとである詠歌がカメラ外に出たのだ。そしてガタガタと物音が聞こえる。
「――ま、まてまてまてぃ。妾はお前がやっている事に少しばかりの興味があっただけで、決して人前に出たかったわけでは――」
「瑠璃ちゃんそれはもう遅いよ。みんなに言っちゃったからね! それに、ノリノリでアバターデザインしたじゃん。ほらほら」
配信向こうのリスナーたちは女の子の声が聞こえた事に驚いた。いつものリリカナの声ではない。だがどうやら出演するのに抵抗があるようだ。まさかの実写か――と思った時だ。
ついにゲストの姿を、配信用の高性能WEBカメラがとらえた。
その姿は、キャプチャー情報に変換されアバターに変わる。
そして、豊かな桃色の髪をたたえた二本の角をもつ少女の姿が現れた。
「うむ……? 動いておるぞ。これが、妾なのか?」
「そうだよ。これがアバターだよ。インターネットの中だけに存在する別の身体だよ! みんなも、はい歓迎! この子は『
“お、新キャラか”
“ルリちゃーん、初めまして^^”
“ふーん、かわいいじゃん。初めましてルリちゃん”
それは詠歌と乙の家に呼ばれた酒呑童子鬼姫瑠璃であった。
「ぬ。な、なるほど。これでこやつらと会話をすると? ……なんと面妖な」
カメラの前で瑠璃が顔を横に向けると、画面の中のルリも顔を向ける。笑えば、笑うし、顔をしかめれば、アバターも顔をしかめた。
額に二本の角こそついているが、本人よりも表情が柔らかくかわいらしいアバターである。画面の中でリリカナと並ぶ姿は愛らしく、少し戸惑った表情を見せていた。
“おー、可愛い可愛い”
“リリカナ様、V仲間いたんか”
“ていうか、お披露目? 今日から始めるんかな。友達のアバターいいね”
“出来いいな。高かったんじゃね?”
「一緒に配信したいと思って作ってもらったんだよ。製作者も私とルリちゃんの知り合い! ちなみに、無料デス!」
“まじか。リリカナのくせに人脈すげぇな”
“ルリちゃん可愛いから、並ぶとリリカナのアラがバレるぞw”
“リリカナも数年使ってるもんな。設計が古い”
“そんないい人いるなら、こっちも新しくしようぜ”
“バージョン上げるついでに露出もあげようww おっぱいおっぱい!”
「えー……、これ気に入ってるのにぃ……」
“リリカナなんか芋いんよ”
“肩出せ、チチ出せ、腹を出せ”
“黒髪で目がうつろなの草。ヤンデレかな?”
“色気も可愛げも足らんのよリリカナアバター”
「ひ、酷い言われよう!? そこまで言うなら考えとくよぉ……。ルリちゃんのアバター作った人、PCにすごく強くてね、自分のチャンネルも持ってるんだよ。今度頼んでみようかな」
「これを作ったのはライし――、ごほん、奴なのか」
「そうだよ。こないだ里に遊びに行った時にお願いしてみたんだ。『姫様のためなら人肌でも二肌でも脱ぎましょうぞ!』って三日で作ってくれたんだよ」
「――あやつ暇を見つけてはパソコンを突いておるからの。人間の文化になじみすぎでは? 爺のくせに器用な奴め……」
“爺さんすげぇな”
“新しい事を始めるのに年齢は関係ないってやつか”
“リリカナ様は、そのルリちゃんとどういう関係なのよ”
「ルリちゃんとは最近再会したんだよ。昔本当に色々あった仲で……、なんていうのかな、喧嘩ばっかりする間柄? まぁ、いろいろあったんだよね。で最近和解したの」
「喧嘩、お前あれを喧嘩と言うのか? ……まぁ鬼の
瑠璃は詠歌との過去の血みどろの戦いを思い出し
(あれはそんな可愛らしいものじゃ無かったじゃろうが)
と呆れた。
“リリカナ様って、元ヤンかー”
“あ(察し)”
“レディースの総長とか”
“なんだそういうことか。メンバー抜けますね(^ω^;)”
“おっと、苦手な人種。俺もさよなら”
“こわい、ぶたないでください……涙”
「え、みんな引かないで。そういうのじゃないから!」
“でもぽいんだよなー”
“学校ちゃんと行ってた? って思う時あったし”
“思わぬところでさらにファン減るのワロタ”
「違うって! 私は真面目! 悪いことしないよ!?」
「よくわからんが、似たようなもんじゃろ……。お前、妾の部下を何人再起不能にしたと思っているんじゃ。こやつ討ち取った敵を積み上げてその上で高笑いしとったぞ」
“ガチなやつか”
“こっわ”
“お前らリリカナをいじるの今すぐヤメロ。殺されるぞ”
そんな話をしている間に、すすーと視聴者数は減っていく。
「ああ、あああ! 減っちゃうぅう。最近ちょっと増えたのにぃい!? いやあああああ!!!!」
“落ち着けよリリカナさまww”
“冗談でログアウトしてるやつも多いって”
“リリカナ様からかうとやっぱ面白いわw”
リスナーたちに弄られたり、励まされたり。
「――最近のこやつはこんな事ばかりしておるのか?」
ギャーギャーと騒ぐ詠歌をみながら、鬼の姫瑠璃はつぶやいた。
質問は室内のテーブル。座布団を置き、そこに鎮座しているピンク色の触手の塊に向けて――すなわちダンジョンの主たる『太歳』寄生妖乙にである。鬼の里で詠歌の外に出てからというもの、彼は単独で存在していた。
「ああ、可愛いもんだろうが。お前と戦ってた時とは大違いだァ」
「妾は昔の鬼気迫るやつの方が好みじゃがな」
「不満そうだなァ、だがてめェは昔の詠歌ァ見てどう思った」
「――ふん。哀れな
「詠歌はいま、自分の人生を取り戻してる最中だァ」
触手の妖乙の声は優し気なものだった。
それは普段詠歌に向ける荒っぽい声とは違うものである。
「あいつはまだ取り返しがつく。だがそれを阻む敵がいるんだァ。太陽の下で自由に生きるには解決すべき問題がまだまだあらァ……」
「問題……。それはあの陰陽師どもの事か?」
「それ以外にもあるんだよォ」
二体の妖の視線は、カメラに向かって泣いたり笑ったりしている詠歌に向けられる。
「瑠璃ィ、お前詠歌の友達になっちゃくれねェか」
「ハァ? 妾は鬼の棟梁、酒呑童子だぞ? 殺し合いを演じた相手だぞ」
「あいつの事情を知りつつ、対等に関われるのはお前しか居ねェんだよォ」
瑠璃は考える。何を思っている
目の前の触手の塊は『阿頼耶識』がダンジョンと呼ばれる以前から、この未曽有の地下空洞を支配していた存在だ。
今は小さな
太歳の名は古くから人間の間でも伝承される。
それが地上に現れた時、地は割れ、海は煮えたぎり、大地は燃えると言われる巨大な祟り神だ。だが同時に、不老不死を与える超越の存在であるとも伝えられている。
妖の中でも、太歳の名は有名である。
『太歳星君』神仙にもなった大妖魔だ。
「なぜあ奴にそんなに入れ込む? 破軍巫女と言えど、あ奴は人間だろう」
その質問に、乙は目を瞑りしばらく答えなかった。だが。
「――事情がな、あんだよォ。まだ言えねェがな」
歯切れの悪い乙の言葉は、どこか後ろめたさを感じているようであった。
「今の妾は弱い。もっと力を取り戻す必要がある。――まぁそれまでじゃな。しばしの間ぐらいいいじゃろう。あ奴と仲良くしてやっても良いぞ」
「カカッ、なんだそれは。ひねくれて居るな酒呑童子」
「人間の女に入れ込む祟り神の方が変じゃ」
二体のそんな会話は、リスナーとのプロレスに熱中している詠歌の耳には入らない。
「ルリちゃんちょっとこっち来てよ! みんなの誤解を解いてよぉ」
無理やり瑠璃の手を引く彼女の顔は、笑顔に充ちていたのだが。
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ここまでテンプレート。
今日は作者です。
風呂敷広げるだけ広げて畳めない事に定評がある八軒ですが、10万文字越えに向けて頑張っておりまするー!
詠歌と乙のお話どうですかね……?
正直中間突破も怪しい本作ですが、読者さんの心に刺さってくれることを祈りながら日々書きかきしております。もしよければ、☆評価、感想などしたためていただければ明日のモチベになります! よろしくお願いします!
◆明日から(多分)新章
次のゲスト妖怪は
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