ノック、してよね

東森 小判

ノック、してよね

 『あ』

 ふたりが同じ言葉を同時に口にするなんてことは私と唯香とではいつものことで、それ自体は別に驚くようなことではないけど、この状況はちょっと、、、

 学校から帰ってきて、いつものように靴下を脱いでスカートも脱いで。当然ブラウスも脱ぐ。

 今日は少し暑いし、ゆったりしたロンTだけでいいやとキャミも脱ぎ始めた。

 同時に私の部屋のドアが開いた。

 ここでふたり揃って『あ』と同じ言葉を同時に口にしたんだけど。

 今私下着だけなんですけど?

 下着だけならともかく、キャミの脱ぎ方が悪かったのかブラがずれて下半分はみ出してるんですけど?

 いくら親友でもこんな姿見られるのは恥ずかしいなんてもんじゃない。

 なのに体が硬直してしまって逃げることも隠すこともできないし。

 しかも唯香がばっちり私のこと見てるのもわかるし。

 なにこの羞恥プレイ。

 もう泣きたい。


 『あ』

 ふたりが同じ言葉を同時に口にするなんてことは私と瑞希とではいつものことで、それ自体は別に驚くようなことではないけど、この状況はちょっと、、、

 学校から帰ってきて速攻で制服からTシャツ短パンに着替えて隣の家に。

 今日はちょっと驚かせたいから静かにドアを開けて、階段も足音を忍ばせて、そろりそろりと瑞希の部屋の前。

 ドアノブもゆっくりと、音を立てないように。

 それじゃ行きましょう、とドアを全開に。

 ここでふたり揃って『あ』と同じ言葉を同時に口にしたんだけど。

 目に飛び込んできたのは下着姿の瑞希。

 しかもブラがずれて柔らかそうなのが溢れてるし。

 見たらダメ!

 でも、、、見たい!

 アンビバレンツな感情のせいで体は硬直。

 だけど視線は瑞希の胸に縛り付けられて。

 でも、親友だからってそれはまずいのはわかってる。

 なにこのトラップ。

 もう泣きたい。


 「み」

 「み?」

 ようやく口から出てきた言葉に唯香が視線を私の胸から顔に上げながら疑問形で鸚鵡返し。

 硬直から抜け出し始めた体が大きく息を吸う。

 大きく吸った分、それは反動として大きな声になるわけで。

 「見るな〜!」

 大声で叫ぶと同時に、やっと私は胸を隠すように腕を回して、それから唯香に背中を向ける。

 ゴソゴソとずれたブラを直しつつ、

 「服着るからあっち向いてて。」

 「は、はい!」

 唯香の声が聞こえて後ろを向いてくれたのが気配でわかると、ベッドの上に放っておいたロンTに手を伸ばしてそそくさと袖を通す。

 ひとまず服を着て恥ずかしい格好ではなくなったので、くるりとドアの方、唯香が背中を向けて立ってる方に体を向ける。

 よかった、ちゃんと見ないでいてくれた。

 、、、見られたけど。

 怒っているのか恥ずかしいだけなのか、自分でもよくわからないけど、

 「いいよ。」

 唯香にかけた声は少し低くて怒ってるように聞こえたはずだ。

 ゆっくりと唯香がこちらに体を向けた。


 「み」

 「み?」

 ようやく瑞希の胸から視線を外すことができて瑞希の顔へと目を向けながら瑞希が口にした言葉が全く理解できずに思わずオウム返し。

 瑞希が大きく息を吸い始めたけどそれってお胸を強調しちゃうからそっちに視線が行っちゃう、、、

 「見るな〜!」

 瑞希の大声で私の体の硬直も解ける。

 胸が腕で隠されて、しかも後ろを向いてしまった。

 ずれたブラ直してる。

 「服着るからあっち向いてて。」

 「は、はい。」

 瑞希の声の圧に思わず、素直にくるりと後ろを向いてしまった。

 私が後ろを向いたのがわかったのか、瑞希の方から衣擦れの音。刺激強すぎ。

 、、、柔らかそうだったな。

 「いいよ。」

 いつもの優しい声と違って低い声。

 めっちゃ怒ってんじゃん。

 瑞希って怒るとめちゃくちゃ怖いんだよね。

 恐る恐る唯香の方に体を向けた。


 こちらを向いた唯香を思わず睨みつける。

 唯香が叱られてる猫みたいに小さくなる。

 こういうときの唯香ってずるい。

 なんだか怒ってるはずの私のほうが悪者みたいで怒れなくなる。

 庇護欲を掻き立てられると言うか。

 おかげで恥ずかしい格好を見られたことに対しての怒りは消え失せてしまった。

 「はあ。」

 ため息をひとつ。

 だけど、恥ずかしい格好を見られたという羞恥心は全然消えないわけで。

 と言うか、今でもめっちゃ恥ずかしい。

 下着だけならまだしも、いくら半分とは言え、私の、ち、小さい、その、おっぱい、見られたとか。

 「見たんでしょ?」

 「な、何を?」

 私の声に、なぜだか妙に動揺した唯香の声が返ってきた。

 「私の、その、胸!」

 いや、だからなんで胸って言葉を強調するかな?

 「み、見ました。」

 小さな声で唯香が答える。

 「それで?」

 普通ならここで唯香に謝罪を求めるような言葉を口にすると思うんだけど、次に私の口が発した言葉は私にも想像できない、想像の斜め上。

 「どうだった?私の胸。」

 って何言ってんの?私!


 瑞希に真っ赤な顔で睨まれた。

 まじ怖い。

 視線は自然と下に。俯いてしまう。

 小学校の頃、本気で怒った瑞希を思い出す。

 あれ、トラウマ級に怖かった。

 確かに私が悪かったのは事実なんだけどあまりにも怒った瑞希が怖くてギャン泣きしてしまった。

 あれ以来、瑞希が怒るのはまじで怖い。

 「見たんでしょ?」

 「な、何を?」

 いや、ここは誤魔化しちゃダメだって。

 ヤバいって。

 「私の、その、胸!」

 瑞希の声に反射的にビクンと体が跳ねる。

 そう、もう素直に謝ろうよ。

 そうじゃなきゃまじでヤバいって。

 「み、見ました。」

 怖くて瑞希の顔が見れない。

 「それで?」

 そう、ここでちゃんと謝んなきゃ。

 ごめんなさいと口にしようとしたら、

 「どうだった?私の胸。」

 想像の斜め上以上の瑞希の問に頭の中が真っ白になった。


 唯香、フリーズ。

 まあ、そうだよね。

 親友に胸の感想聞かれたらなんて答えたらいいかなんて、いやそれ以前に、親友からそんなこと聞かれるなんて考えたことすら無い。

 いや、大体、何で私あんなこと言ったの?

 「や、」

 「や?」

 突然の唯香の声に鸚鵡返しで聞き返したら、

 「柔らかそう、だった、、、」

 唯香、まじレスしてきた。

 今度は私がフリーズ。

 いや、だって、私の胸の感想、まじで答えるとか思ってなかったし。

 しかも、柔らかそうって、、、

 自分だからわかるけど、

 「ち、ちっちゃいから全然柔らかくない!」

 って、何でまたこんなこと大声で言ってるの?私。

 

 どうだった?って聞かれた私はなんて答えたらいい?

 正直に答える?それとも誤魔化す?

 正直に答えたら答えたで藪蛇になりそうだし、誤魔化したら誤魔化したで瑞希怒らせそうだし。

 瑞希が怒るのだけは避けたい。

 う〜ん、やっぱり正直に答えるしか無いのか。

 「や、」

 口にしようとしたら、思った以上に勇気が必要だったみたいで躊躇ってしまう。

 「や?」

 そうだよね、最後まで言えってことだよね。

 わかりました。ちゃんと答えるから怒らないでね。

 「柔らかそう、だった、、、」

 い、言っちゃった。

 私の答えを聞いた瑞希はぽかんとした顔。

 あれ?私マズった?

 と思ったら、瑞希、

 「ち、ちっちゃいから全然柔らかくない!」

 トンデモ発言してきたせいでまたまた私の頭の中真っ白。


 唯香、再フリーズ。

 自虐ネタを大声で言われても、そりゃ困るよね。

 う、、、今日の私、なんか色々と自分から墓穴掘ってる気がする。

 だめだ、こりゃ。

 頭を抱えてしゃがみこんでしまう。

 「あ。」

 「あ?」

 フリーズしてた唯香の一言に、またまた鸚鵡返し。

 唯香の視線の先、、、ん?

 「唯香のスケベ!」


 全然柔らかくないって、もしかして瑞希、自分で?

 あ、やば。

 想像するな、瑞希が自分の胸触ってるところとか想像するな。

 頭の中から瑞希を追い出そうとしてるといきなり瑞希が頭を抱えてしゃがみこんだ。

 瑞希、ロンTだけだから、

 「あ、」

 見えた。

 「あ?」

 瑞希が私を見て、そして、私がどこを見てるのかわかったようで、

 「唯香のスケベ!」


 慌てて足を閉じて裾を抑え込んで、それから膝立ちしてガード。

 また墓穴掘っちゃったよ。

 もう、いや。

 「はあ。」

 唯香の方を見ると、唯香、笑ってるし。

 「何で笑ってるのよ。」

 睨んでみるけど唯香は笑いを止めない。

 「今日の瑞希、ドジっ子というか、隙きだらけで、なんか可愛い。」

 「な、、、!」

 唯香の口からかわいい、なんて単語が出てきた。

 しかも私のこと?

 唯香私のこと可愛いとか今まで言ったこと無いのに。

 それが何故だか無性に恥ずかしくて、私は俯いた。


 いや、スケベとか言われても、今のは私悪くない。

 と言うか、今日の瑞希、なんかいつもと違う。

 「はあ。」

 瑞希ため息吐いてるし。

 なんか、かわいくない?

 「何で笑ってるのよ。」

 瑞希がジト目を向けてきたけど、これはこれで。

 「今日の瑞希、ドジっ子というか、隙きだらけで、なんか可愛い。」

 「な、、、!」

 顔を真っ赤にした瑞希が、そして俯いてしまった。

 

 う〜。

 今日は恥ずかしいことばっかりだ。

 しかも私だけ。

 ずるい。

 唯香を見たらまだ笑ってるし。

 「私ばっかり恥ずかしいのずるい。唯香も恥ずかしい思いしてよ。」

 「何それ?」

 そう、こうなったらお返ししなきゃ。

 立ち上がって、唯香をまっすぐに見る。

 首を傾げて私の次の言葉を待ってる唯香。

 「脱いで。」

 「へ?」

 私は見られたんだから、今度は唯香が見られる番。

 「Tシャツ、脱いで。」

 「何故に?」

 「唯香、私の見たでしょ?だから唯香も見せなさいよ。あ、Tシャツだけじゃなくて短パンも。」

 「、、、瑞希のスケベ。」

 「スケベじゃない!」


 顔を上げた瑞希。

 あ、嫌な予感。この顔、絶対なにか企んでる顔だ。

 「私ばっかり恥ずかしいのずるい。唯香も恥ずかしい思いしてよ。」

 「何それ?」

 予感が的中しそうな雲行き。でも、まあ瑞希のことだから変なことは言わないでしょ。

 「脱いで。」

 「へ?」

 瑞希はまじめな顔して変なこと言い出した。

 「Tシャツ、脱いで。」

 「何故に?」

 「唯香、私の見たでしょ?だから唯香も見せなさいよ。あ、Tシャツだけじゃなくて短パンも。」

 「、、、瑞希のスケベ。」

 「スケベじゃない!」


 どうしてこうなった?

 唯香は恥ずかしがることなくぱぱっとTシャツと短パンを脱いで下着姿になった。

 あまりにも普通に脱ぐもんだから私のほうが恥ずかしくなってきた。

 「どう?」

 「どう、って?」

 ドヤ顔の唯香。

 「私の下着姿見てるんだから感想ぐらい聞かせてくれてもいいじゃない。」

 唯香を恥ずかしがらせようとしたのに、どうして私が恥ずかしいの?

 「ほら、目逸らさずにちゃんと見てよ。」

 唯香のこと、まともに見れない。

 大体唯香はずるい。

 スタイルいいし、胸だって私より大きいし。

 クラスの男子いっつも見てるし、何回か告白されてるし。

 だめだ、なんか落ち込んできた。

 「それじゃ、今度は瑞希の番ね。」

 「へ?」

 「ほら、脱いで脱いで。私だけ下着だと変でしょ?」

 唯香の手が伸びてきて私のロンTの裾をまくりあげてきた。

 「ちょ、ちょっと唯香。」

 「いいじゃん。ほら、脱いで。」


 下着になるくらいならいいか。

 ちょっと恥ずかしいけど。

 こういうときはぱぱっと脱がないとズルズルになっちゃうから、えいやっと脱いでいく。

 Tシャツと短パンだけだからあっという間に下着だけの私の完成。

 「どう?」

 「どうって?」

 脱げって言われて脱いだんだから、

 「私の下着姿見てるんだから感想ぐらい聞かせてくれてもいいじゃない。」

 だけど瑞希は目逸しちゃった。

 「ほら、目逸らさずにちゃんと見てよ。」

 う〜ん、こうなったら。

 「それじゃ、今度は瑞希の番ね。」

 「へ?」

 「ほら、脱いで脱いで。私だけ下着だと変でしょ?」

 私は瑞希のシャツの裾をまくりあげる。

 いけないことしてる感覚と、それにスリルというか楽しさを感じてる私。

 「ちょ、ちょっと唯香。」

 「いいじゃん。ほら、脱いで。」


 唯香に脱がされた。

 恥ずかしいから胸だけは隠す。

 「隠さなくてもいいじゃん。」

 ちっちゃいから、

 「恥ずかしいの!」

 このままどっかに消えてしまいたい。


 瑞希、脱がせちゃった。

 胸隠しちゃうし。

 「隠さなくてもいいじゃん。」

 せっかく可愛い下着なのに。

 「恥ずかしいの!」

 恥ずかしがってる瑞希も、ね。


 「もういいでしょ。服、着る。」

 「は〜い。」

 「あっち向く。」

 「は〜い。」


 ふたりとも服を着て、今はいつものようにふたり並んでベッドに腰掛けてる。

 気まずくない、と言ったら嘘だけど、私と唯香だし、今はもう落ち着いた。

 「ノック、してよね。」

 「どうしようかな〜?」

 「ノック、して。」

 「はいはい、ノックします。」

 ベッドに背中からダイブして横になって唯香を見上げる。

 「恥ずかしかったんだからね。」

 「ごめん。」

 沈黙。

 唯香の下着姿を思い出す。

 実は唯香のスタイルって私の理想なんだよね。

 女性らしくて、でも、いやらしさがない。

 ちらりと唯香の胸を覗く。

 大きすぎず、小さすぎず。私の手にすっぽり、、、

 いやいや、何考えてるの私?

 胸見てると変なこと考えてしまいそうだから唯香の横顔。ん?なにやらブツブツ独り言。

 「あ、そうか。ノックはドアを開けた後でも、、、」

 「おい。」

 唯香を睨む。

 「冗談冗談。」

 「いや、本気っぽかった。」

 はあ、まあ、唯香だし、下着くらいなら、まあいっか。

 だからって簡単には見せないぞ。

 「唯香ちゃ〜ん、晩ごはん食べてくでしょ?」

 「あ、おばさん、ありがとう。おばさんの料理おいしいから食べていきま〜す。」

 ドアの向こうからのお母さんの声にニコニコと答える唯香。

 この流れだといつものように唯香のパパとママも来そう。

 あのふたり、面白くて大好き。食卓がにぎやかになってご飯も美味しくなるし、私の知らない唯香の話も聞かせてくれるし。

 「よいしょっと。」

 起き上がってベッドから降りる、それから唯香に手を差し出す。

 唯香が私の手を取ってベッドから降りる。

 「行こ。」

 「うん。」

 こんな関係がずっと続くといいな。

 柔らかい唯香の手をぎゅっと握りしめる。

 唯香も応えてくれた。

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