僕の机の引き出しの中の短編のホラーの

音露詩おどろ

目から鱗

あの日、海に魚を釣りに行った日。

見たこともない魚を釣った。

形状は魚なのだが、僕の知っているどの魚にも当てはまらなかった。

寒色の絵の具を浅く混ぜたような色で美しかった。

左右非対称な胸鰭と丸みを帯びた背鰭、目は無く顔の殆どは大きな口で、そこから覗く歯はまるで人間の歯のようだった。


そして僕が一番目を引いたのは鱗だった。

寒色の美しい体に渦巻き状に生えている鱗。

魚が跳ねる度、一枚一枚がまるで生きているかのように蠢く。

触れてみると魚特有のぬめりと人肌に似た感触がした。

僕はこの魚に興味津々になった。

家に持ち帰って飼育しようと思った。


クーラーボックス内の氷を全て海に捨て海水を入れる。

先に釣れていたアジや小鯛、初めて釣れて喜んだカワハギもいたが気にもしなかった。

濁った海水がクーラーボックスに溜まる。

そこへ『あの魚』を入れようと触れた瞬間、魚が大きく跳ね、僕の目に何かが入った。

目を擦る。

鱗だった。


渦巻き状に生えていた鱗。

ぬめりのある人肌に似た鱗。

不思議と痛みはない。

少し目に違和感があるだけだ。

『あの魚』はバシャン!と音を立て僕の手から海へと帰っていった。


その日から僕の目からボロボロと鱗が落ちる。

嫌ではない。むしろ気持ちいい?

寒色の絵の具を浅く混ぜたような色の鱗だ。

部屋の床はぬめりのある鱗で支配されていた。

大量のゴミ袋の中も全て鱗だ。

僕はいつもの日常を見つめながら大きくあくびをした。

あくびの後はいつもより鱗が沢山落ちる。

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