首輪
「ふははは! ただのニンゲンが鬼に勝てると思うな」
うるせぇ鬼野郎だ。自慢げにしゃべりやがって、そのみてくれじゃあ女の子すら寄り付かねぇぞ。いいや、女の子が寄り付かない点はおれの方が勝っているかもな。つまりおれは鬼よりも強い。
「勝つぜ」
とは強がって言っても心の中では負けの文字しかない。
はぁ……今日でおれは死ぬのか、まだ女の子とキスもしてないぞ。そういえばおれって本気で女の子を好きになったことねぇな。好きでもない女の子に告白しては振られて、挙句の果てにはボッチだし。
いいや、おれはボッチじゃない。比渡ヒトリって飼い主がいるし、家に帰れば妹がいる。
あぁ、勝ちてぇなぁ。こんなクソ鬼に負けたくねぇよ。
なぁ比渡、どうすればおれは勝てる?
「――勝ちたいならその首輪を着けなさい!」
首輪……こんなただの首輪嵌めたところで何が変わるってんだよ。
「ぐっ……!」鬼の手に握られている比渡は苦しそうにしている、でもおれに何ができる?
「あなたはわたしの犬でしょ! 言うこと聞きなさい! 日野陽助!」
ドクン、ドクン。心臓の鼓動が聞こえてくる。
ダメだ、カラダが動かない。
おれみたいな雑魚に何ができるってんだ。今までもそうだ、おれは逃げてきたんだ。逃げて逃げて、生き残ってきたんだ。
だからおれは、これからも逃げて生き残るんだ。
「あなたは負け犬じゃないわ……わたしを助けて、陽助」
おれは逃げて…………
――おれは床に落ちている首輪を掴んだ。
ああ、分かってる。逃げるわけにはいかないよな。なあ日野陽助、目の前で飼い主が苦しんでいるぞ。今助けないと一生後悔することになるんだぞ。
――鬼と戦え。
おれの青春ラブコメを守り通すには、いま比渡ヒトリを助けなくちゃならねぇんだ!
ヒロインだろうが負けヒロインだろうが助けなくちゃ主人公にはなれねぇんだ。
「はははは! それでも黒犬の犬か? あの犬夜叉と言われたベアトリクスの足元にも及ばんな」
鬼は笑い、この戦いを楽しんでいるようだった。
なに余裕ぶっこいてんだよ鬼野郎。おれは桃太郎よりも甘くねぇぞ。
「かかってこないなら――飼い主と共に死ね!」
鬼の手がおれを引き裂こうと迫ってきた。
「おれは死なねぇし誰も死なせねぇよ――勝つぜ」
――おれは首輪を着けた。
<認証完了>という音声がおれの耳に響いた。
<犬因子の投与を開始>おれは首の辺りにチクリと痛みを感じた。
<投与完了、アルファ階級、ベータ階級、オメガ階級、全ての因子と適合>
<これより鬼狩りを開始する>
気付いた時には、おれは、高く、高く、空を飛んでいた。
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