犬の意地
おれはどうすればいい……こんな非日常聞いてない。
比渡は鬼に捕まっちまった。どうすれば逃げられる……どうすればこの状況を乗り切れる。
「面白いことを思いついたぞ、おいそこのニンゲン」
鬼はそう言った。おれのことか。おれ以外存在しないよな。
「何か用ですか……」
おれは震える声で訊いた。もう怖くて動けねぇ。一歩でも動いたら殺されるかもしれない。
「豚学の生徒と殴り合いをしろ。もちろん十対一でな」
ふざけんな、おれが勝てるわけねぇだろ。しかも相手は喧嘩上等の不良共だし、体格が違いすぎる。おれに勝ち目なんてない、ただの集団リンチだ。
「野郎共! やれ!」
「ぐっ!」
おれは豚学の生徒たちに殴られた。蹴られた。羽交い絞めにされて殴られ蹴られボコボコにされた。
「なんだ? 黒犬の犬のくせに弱いな」
弱いだと? 当たり前だろ、おれは殴り合いの喧嘩なんかしたことねぇんだから。てか痛ぇ……もう帰らせてくれ。帰って妹の頭をなでなでしたい。
口いっぱいに血の味が染み込んでいる。どうしてこんな目に合わなくちゃいけないんだ。ああ、そうか、おれが非日常なんて選んだからだな。非日常を選んでさえいなければ今頃家で読書か妹の頭をなでていたんだよな。おれの選択ミスだな。
比渡も選択ミスしちまったな。おれみたいなバカで弱い男を犬にして後悔しているよな。
「どうしたニンゲン、やり返してみろ」
おれは床に倒れた。こんなに痛い思いをしたのは生れて初めてだ。特に痛いのは精神だ。比渡ヒトリの邪魔ばかりして、何の役にも立っていない
まあ、おれが強けりゃこんな状況になってないんだよな。
「もうやめて! 彼はわたしが巻き込んだの! 殺すならわたしを殺せばいいでしょ!」
バカ言うなよ比渡、おれだって男だぜ。殺される女を前にしておいそれと許すと思うか?
「比渡、おれはお前の犬だ。飼い主を守らなくてどうする?」
そう格好良く言ったところで状況は最悪のままだ。何も変わらない。
「バカ! あなた死にたいの?」
まあ見てろよ比渡、ここからおれの土下座が炸裂して鬼はビビり散らすぜ。ビビり過ぎて鬼だけじゃなく豚学の野郎共も小便漏らすぜ。
「ほら鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
おれの煽りが少しは効いたのか、鬼は元から赤い顔をさらに赤らめた。
「それが望みかニンゲン……」
「ああ……おれは勝つぜ。お前のようなヒトを道具としてしか見ないクソには絶対に負けねぇ」
ふと気づけば、おれの目の前に首輪があった。
比渡がドッグズから狙われている理由となる首輪だ。
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