幽霊でした、彼女。

アマオト

プロローグ

第1話 初めまして透明ガール

 夕暮れの教室、外からは野球部の声、少し遠くから吹奏楽の音が聴こえる。


 大人になったらこの光景を思い出して「エモかったな」と懐かしむのだろうか。

 もう死語になってそう……。

 そういえば、なうとかわずとか最近聞かなくなった気がする。言葉の移り変わりは早い。

 ひとりぼっちの教室でそんなどうでもいい事を考えながら黄昏たそがれているとガラガラと教室のドアが開かれた。


 突然の出来事についドアの方に目を向ける。

 そこには同じクラスの女子生徒が居た。目が合う。瞬時に目をそらす。


(うわぁ……やってしまった)


 顔が熱い。恥ずかしい。

 その女子生徒はなにかを取りに来ていたようで、自分の机の中をゴソゴソとするとそのまますぐに去っていった。


(夜、1人反省会しよ……)


 そう思いながら僕も教室を後にした。




 現在、高校1年生の5月、入学して1ヶ月が経った。

 まだ大丈夫、まだ大丈夫と自分に言い聞かせている内にクラス内のグループはある程度固まっていき無事ぼっちになってしまった。

 高校でこそは友達を作りたい、青春を謳歌したいと息巻いていたのに……!


 入学前にSNSのグループが出来て、同級生だった男子(ほぼ話したことない)が奇跡的に招待してくれて、そこでは普通に話せていた。

 更にそこから友達に追加されて個人トークで普通に話す仲に!!!しかも女子!!!


『学校始まったら話しかけてねー、どんな顔か見てみたいしー』


 勝ちました、ありがとうございます。今日から陽キャの仲間入りだとウキウキ気分で入学式が終わり、教室の生徒の名簿を見てみるとまさかの隣の席。


 ……という最高のスタートを決めたのにも関わらず、話しかけられず、その日以降連絡も来ていない。もちろん僕からもしていない。というか出来ません。


 そんなこんなで1ヶ月。


 自分が情けない。男らしくも無い。小さいし。

 青に変わる信号を待ちながら、うつむく。


「はぁ……」


「青に変わったよ」


 溜息をつくと見知らぬ女子に声をかけられた。

 知らない学校の制服を着ていたので、他校の生徒だろう。あと金髪だ、陽キャ……ギャル感がする。

 いつもならコミュ障大爆発が起きて慌てふためくのだが、なんかもういいやと投げやりになっていたので普通に答えられた。


「あ、えっと、はい」


 あ、えっとは余計だった。訂正、コミュ障大爆発は起きていた。

 恐る恐る彼女の方を向くと驚いた顔をしている。

 あれ?そんなに驚くことした……?そこまで声震えてましたか……。

 泣きそうになったので足早に信号を渡ると


「ま、待って!!!」


 そう言って追いかけてきた。

 え?怖い怖い怖い。なんか追いかけてきてるぅ。早く帰ろう。

 そう思い走り出そうとした所で腕を掴まれた。


「……待ってって言ってるんだけど」


「ひ、ひぃ!なんですかカツアゲですか!お金ないです!ほら!」


「いやいらないし……じゃなくて!!!」


 握られた手の力が強まる。

 まるで何かを願うような必死な表情で彼女は言った。



「君、もしかして私が



 この日、この瞬間、僕の人生は変わっていく。

 少し遠い未来で僕は思う。

 きっと、大人になって思い出すのはこの光景だと。

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