メール

ピロン


 サトルと手をつないで歩く小山が、携帯電話の着信に反応する。

「サトル、ちょっとごめんね」

 サトルの手を離して鞄から携帯電話を取り出す。

 画面には長谷川カナの文字が浮かび上がり、短い本文が続いていた。


――カコ!変態が出た!なんとなく話しかけたイケメンが変態だった!笑――


「ん?」

 カコは笑マークを確認し、キラーンという効果音を頭で鳴らす。


――詳細!はよ!――


 タタタタと文面を打ち込み、すぐさま返信する。

 カコはニヤッとして面白そうな話に興味を持っていた。

 少し強い風がヒュンと吹き抜ける。


「へっくしょん!」

 サトルがくしゃみをした。

 カコがはっとしてサトルを見る。

「大丈……」

 心配を言葉に乗せたとき、目の前に赤い風船が浮かび上がっていった。

「え?」

「あ!」

 気がついた時には、風船は上方の木の枝にひっかかり、手を伸ばせば届く範囲を優に超えていた。


「サトル、手、離しちゃったか」

「う……ぅん……」

 カコは察知した。口をへの字にして、眉間にしわを寄せ、唇をわなわなさせるその表情を見て。


「う……ぅえーん……ふうせん……ふうせんー!」

 小さな初動が口の中でゴロゴロと動き回っている。

「サトル、この高さじゃ届かないから」

 カコはなんの解決にもならないことを知っていて、そんな声をかけた。

 サトルの小さな初動が勢いをため込み、一気に放出される。

「うわーん!いやだよー!えーん!いやー!」


 カコはどうしたものかと困り顔である。


 その時、風の勢いとともに、ヒーローが現れた。



――そういえば、私のヒーローは張りぼてだったわね――

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