異能者と超常存在

Ω

第1話

──フランス・パリ──


緊急の依頼と聞いて厄介なものか危険なものを想像していたけど。


「…すごい事になってる」


重武装の戦闘部隊複数と彼らを乗せてきたであろう

軍事車両。


複数台配置された戦車と上空を旋回しているヘリコプター。


この全ての戦力は目の前の一軒家──これから私の仕事場となる場所を包囲する為だけに集められたようだ。


「面倒な依頼を当てたかな…」


電話越しに聞いた時には切迫詰まった感じとかしなかったのだけど。


「ここから先は立ち入り禁止だ」

一条零いちじょうれいです」

「…誰だ」


侍の甲冑と騎士の鎧を連想させるパワードスーツを身に纏った企業戦士に通行止めを頂いた。


このスーツが配布された物なのか自分達の購入装備なのかは分からないが、全ての戦闘員が着用している…やはりとんでない依頼を引き当てたんだろうか。


「そちらの依頼で──」

「雇った怪異ハンターだ。さっさと通せ」


企業戦士の背後から機嫌の悪そうな低い声が飛んできた。キッチリとスーツを着こなしながもロングコートを羽織った女性──マグノリアの指示だった。


「タバコ辞めるって言ってませんでした?」

「あ?コイツは葉巻だ」

「同じ──」

「同じではない、全く違うものだ。仕事の話しをするぞ」


一枚のタブレットを手渡される。


「通報が入ったのが一時間前、内容は異臭と騒音」


住人は成人の男女二人に高校生の男女二人の計四人。全員に血縁関係あり、つまり家族と。


「到着した警官が突入してみると中にはゾンビが居たらしい」


討伐対象の推定される最低数は四体。


「飛び出してきたゾンビに対応出来ず一名が死亡」


ゾンビ系の怪異は二種類存在する。


他の怪異のように自然と何処からともなく湧いてくるゾンビ。


そして他の怪異や何らかの魔法によって産み出される、或いは既存の生物をゾンビ。


「その後、生き残りが応援を要請。近くを巡回していた我々のパトロール部隊が現場を封鎖」


教会による結界が機能しているこの家に湧いて出る事はまず無い、よって今回は後者だろう。


「その後、パトロール隊が改めて突入したところ例の吸血鬼の痕跡を確認したため撤退。これが30分前の話だ」


吸血鬼──現在進行形でヨーロッパを騒がせている怪異。


怪異の知性は原典による差異はあれど知的とは到底呼べないものである。


だが、近年それを覆す個体──がたびたび現れるようになり、人類の新たな脅威となっている。吸血鬼もその内の一体だ。


「所属のハンターの犠牲を避ける為、外部のハンターを探した。結果、お前が見つかった」


目と耳から入った情報を処理している内に着いたようで、血液が付着した玄関前でマグノリアが足を止める。


「以上。何か質問は?」

「いえ、特に」

「そうか、なら仕事を始めろ。怪異の残骸は残せよ」


マグノリアが煙を吐きながら携帯を片手に足早に去っていく。


完全体吸血鬼絡みの依頼…」


を考えるなら最高の一体。ただし、私一人で倒せる可能性は低いだろう。


完全体の討伐に成功しているのは最多討伐の英雄チームと西洋教会のアブソリュートの二つのみ。


私の奥の手は控えめに言ってもすごく目立つ。少なくともこの現場で出す訳にはいかない。


「ま…良しも悪しもどーせままなら無いか」


怪異を封じ込めていた電磁結界に隙間が開く。私の命運に重大な影響を及ぼしうる、依頼の始業時間である。



 





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