首取り様4
西羽咲 花月
第1話
5つ目の首がついてる……。
佳奈は呆然として5体の首無し地蔵を見つめた。
最後についた首は一生のもので、石になった一生の首は他の首と動揺にキツク目を閉じている。
「嘘だ……」
明宏がかすれた声を上げた。
目が覚めたときに佳奈たちの拘束は解かれていたけれど、それでも誰1人としてそこから動くことはできなかった。
この悪夢に巻き込まれてからの出来事が走馬灯のように佳奈の脳裏を過ぎ去って行く。
最初はなにをやらされているのか意味がよくわかっていなかった。
ただ怖くて、それで一生懸命になっていた。
化け物に襲われて、武器を持つようになって、それでも逃げずに戦ってきた。
大輔は大きなケガをして、自分と明宏は大切な人の首を奪われた。
そしてイケニエが彼らに変わり、それでも大切な人の首は戻ってこなくて……。
だから終われないと思ったんだ。
幸い、三福寺のお守りのおかげで佳奈たちは今も悪夢に関わることができていた。
そしてこの街で起こった様々な歴史を目の当たりにもした。
雨乞いのイケニエや、それに関係する差別、イジメが現代まで息づいていることを知った。
なにも知らない自分を恥ずかしいと感じて、攻めたこともある。
それでも大切な人の首を元に戻すために、決して諦めはしなかった。
それなのに……。
呆然として5体の地蔵を見つめていたとき、不意に足元が大きく揺れた。
ゴゴゴッという地響きと共に立っていられなくなり、その場にヒザをついた。
地震!?
身構えた直後、近所の家々の玄関が開いて住民たちが慌てて駆け出してきた。
みんな着の身着のままで、揺れに驚いている。
その揺れはしばらくすると収まったものの、周囲の喧騒は消えない。
しばらくは揺れたことについて話し合っていた住人たちだが、1人がこちらへ視線を向けた。
その瞬間、みるみる顔が青ざめていく。
「じ、地蔵が!!」
男性は地蔵を指差してそう叫んだのだ。
三福寺にまつわるものを持っていないと、この地蔵は見えないはずなのに。
男性に促されるようにして他の人々も地蔵へ視線を向ける。
そのだれもが恐怖で顔を歪ませ、時には悲鳴を上げて、時にはそのまま家に逃げ帰っていく。
その様子を見ているだけで、この首無し地蔵たちは住民にとって地震よりも驚異の存在であることがわかった気がした。
「なんで地蔵が見えてるんだよ?」
大輔が誰に共なく聞く。
答えたのは智子だった。
「地蔵全部に首がついたからじゃない? そしてこれから、地蔵がこの街を壊滅させてくれる!」
智子が叫ぶようにそう言った瞬間だった。
今までキツク目を閉じていた5体の地蔵たちが一斉にカッと目を見開いたのだ。
「慎也!」
佳奈が咄嗟に慎也の顔をつけた地蔵に駆け寄りそうになり、それを明宏が止めた。
「近づくな佳奈!」
「でもっ!」
目を開けた地蔵たちはガクガクと左右に揺れ始めた。
その揺れに合わせて石がボロボロと剥がれ落ちていく。
石の内側から現れたのは灰色の手足だった。
それは人間と同じほどの大きさがあるにもかかわらず、やはり質感は石でできているようだった。
「なんだよこれ……」
大輔が注意深く後ずさりをする。
目が覚めた地蔵たちが自分の味方ではないことは、すでに理解していた。
完全に人ほどの大きさになった地蔵たちは逃げ惑う住民たちに視線を移した。
次の瞬間、一生の顔をもつ地蔵が足を前に踏み出したのだ。
黒い化け物ほどの速さで1人の女性の前に移動する。
あっけに取られた女性が動けずにいる間に、一生の顔を持つ地蔵はその首を捻りあげたのだ。
ボキッ! と、骨が折れる乾いた音が周囲に響き渡る。
女性はそのまま地面に崩れ落ちて二度と目をさますことがなかった。
それを見ていた住民たちは更に大混乱に陥った。
地蔵が動き回り1人、また1人の住民の首を折る。
時には残酷に胴体と頭を引きちぎってしまい、周囲は血の海になった。
「くそっ! こんなのどうすることもできねぇだろ!」
咄嗟に地蔵の奥の林に身を隠した大輔がつぶやいた。
その横には佳奈と明宏の姿もある。
佳奈は慎也の顔を付けた地蔵が次々に街人たちを殺していくのを見た。
首を折り、首を引きちぎり、それに対して少しも表情を変えない。
まるで工場で毎日同じ流れ作業をしていような、事務的な動き。
あれは慎也の顔をしていても、慎也じゃない。
そうわかっているけれど、胸がジリジリと痛くなる。
やがて5体の地蔵たちは散り散りになり初めて、住民たちの悲鳴は遠くに聞こえるようになっていた。
そしてようやく4人は林から道路へと抜け出した。
「これが街を壊滅させるってこと?」
春香が震える声でつぶやいた。
てっきり大きな爆発が起きて、あっけなく終わってしまうのだと思いこんでいた。
だけど違うのだ。
地蔵たちは長年の恨みを晴らすために、住民たちを1人ずつ殺していく。
人間の首を引きちぎってしまうほどの力に、そう簡単に太刀打ちすることはできない。
住民たちは一刻も早くこの街を出ていくしかないのだ。
「あいつらはどこに行った?」
大輔が智子と亮一を探し始めた。
しかし、近くに彼らの姿はない。
街に突然訪れた喧騒に姿をくらましてしまったようだ。
「くそっ! あいつら絶対に許せねぇ! こうなるってわかってたんだよな!?」
大輔の言葉に春香は頷いた。
そう、彼らはこうなることをわかっていた。
そしてわざと首を探さなかったんだ。
それは人殺しと同罪だった。
問い詰めて、1発くらい殴り飛ばさないと大輔は気が済まなかった。
「あいつらを探し出そう。もしかしたら、この状況をもとに戻す方法も知っているかもしれない」
明宏が顎に指を当ててつぶやいた。
彼らはイケニエや儀式について深い知識を持っていた。
街が壊滅させられることも知っていたし、それ以上の情報を持っていてもおかしくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます