第2夜 友人Aのツアーコンダクターの彼女の話2
Aは相変わらずだらけた格好で、居酒屋にやった来た。
Aはあくびをしながら、「俺もビール」と言ってイスをガタガタと鳴らしながら隣に座った。
「あれからどうしているんだ?」
と、僕は聞いてはみたが、あれから二週間しか経っていない事に気づいた。
Aは「相変わらずだな」と言い、ビールをグビグビと飲んだ。
Aはまだ、あのツアーコンダクターの彼女と続いているそうだ。
Aの彼女は、添乗の後に産地のお土産を持ってきてくれたり、現地の写真を見せてくれるらしい。
「良い子じゃないか」
ちょっと楽しそうに言った僕にAは、
「ああ、まあな。他にも土産話もあったりしてよ」と、Aは面倒くさそうに、焼き鳥を口で引き抜きながら言った。
今回Aの彼女は、北陸のとある温泉街のツアーの添乗になったそうだ。
そこは、有名な日本庭園があり素晴らしい野球選手が育った街だった。
観光の後、有名な温泉ホテルに泊まる事になったそうだ。
ホテルはもちろん、温泉と料理は申し分なかった。
ただ、問題は部屋だった。
添乗員やバスガイドなどは繁忙期の時に、しばしば、あまり使われていない部屋を宛がわれるそうだ。
Aの彼女はツアー客との食事を終え、やっと部屋に帰ってきた。
座ろうと思った時、テーブルの位置が少しおかしい事に気がついた。荷物を置きに来た時には気づかなかったが、どう見ても床の間に寄り過ぎていた。
テーブルを動かそうと思ったその時、チャイムが鳴り、布団敷きの方がやって来た。そして「ちょっと失礼しますよ」と、そそくさと布団を敷いて帰って行ったそうだ。
布団は、先ほどテーブルが置いてあった場所に敷かれていた。
Aの彼女は「ああ、これは何かあるんだな」と思い、どうしようかと悩んだ結果、好奇心には勝てず布団を捲った。
布団の下の畳には、一畳のほとんどをどす黒い古い血の様なものが染み込んでいた。
Aの彼女は「うわ」と声を出してしまった。
添乗員をしていると、こういう事はよくあるとは聞いてはいたが、自分が体験するのは本当に嫌な気分になる、との事だ。
部屋を代えてもらうのは多分難しいだろうから、これをこれからどうするか、を考えるしかなかった。
見てしまった以上、このままこの上で寝る気になれないが、隣で寝る気にもなれない。
困ったAの彼女は、血の様なものが付いた畳に、敷き布団を置き、その上にテーブルを置いた。
そして端の方で掛け布団にくるまり夜を過ごしたと言う。
「次の日の朝から、体がバキバキで大変だったよー」
と、Aの彼女はAに楽しそうに言ったそうだ。
「そんなもんなんかね」 とAはボソリと呟いて、居酒屋を後にした。
そしてAは「またな」といって、サンダルを引きずりながら、暗い路地に消えていった。
……そういえば、Aは何の仕事をしていたのだったか?
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