フガクぅとめぇさん
狐照
氷菓
爽やかな味が口の中に広がる。
心地良い涼が喉から腹を冷やす。
舐める。
齧るにはまだ硬いので、舐める。
だけど全然溶けない氷菓。
それは富嶽の好きな、ソーダ味のアイスキャンディー。
好きで好きで、いつもそればっかり食べている。
いつも美味しいって食べている。
なのに、辛い今は辛い寒い。
身体の震えが止まらない。
歯の付け根が合わない。
はやくしないと、手が腕が。
舌が麻痺し寒くて、涙が、流れた。
「あれぇ、フガクぅ全然食べ進んでないじゃぁん。好きな味にしてあげたのにぃ」
長い脚組みかえる姿も麗しいひとが微笑む。
好きな氷菓、大きく作ってあげたのに、といった様子に富嶽は鼻を啜った。
「めぇ、さんっ…ごめんなさいごめんなさいもうゆるして…」
「んぅ?好きなのあげただけでどうしてそんなに謝るのぉ?」
濡羽色の髪と瞳が美しい、やさしい恋人にそう問われ、富嶽は答えに詰まった。
だって。
だって、どうしてこんな事になっているのは分からないからだ。
答えない富嶽に冥は傍に近寄りスマホを見せる。
「もぅ、しょうがないなぁ。…このオンナだぁれなぁにィ?」
「っ」
写真を見せられた富嶽は驚愕した。
どうして?と冥を見つめる。
「逆にどぉして、ボクに隠し事出来ると思ったのぉ?」
闇の隙間が笑ったような笑みだった。
背筋がゾクっとした。
それでも富嶽は、言いたくなかった。
どうしても、言いたくなかった。
「かき氷にしてあげよぉかァ?」
冥がまったく溶けない氷菓を突く。
これを削る事なんて、冥にとっては何てこたぁない作業。
けど富嶽には恐ろしい、出来事。
だって、腕を無くしたら抱き締める事が出来なくなってしまう。
ああ、違う。
このままでは、抱き締める事が、出来なくなってしまうのだ。
「プレゼント…」
「んぅ?」
「今年は、誕生日、素敵な物を、ちゃんとあげたくって!」
「フガク…」
予想外の回答だったのだろう、冥が目を丸くする。
言い訳に、聞こえているのかもしれない。
だとしても、富嶽は真実を語るまで。
「めぇさんに、素敵な物、だからっ色んな人に相談しただけでっ、俺っめぇさんに似合うのっおれぜんずないがらぁぁ」
富嶽は泣き崩れた。
正直、手と腕の感覚はもう無いもういいと自暴自棄。
「フガク、こっちみてぇ」
みっともなく泣きじゃくる富嶽の顔を冥が両手で包み込む。
【真実か否か問う】
富嶽にはそれは聞き取れなかった。
よくあることだった。
富嶽が冥について知っている事なんて、ほとんどなかったでも好き大好き愛してる。
だから泣きながら告げる。
「なざげない、おれで、ごめんなざい、めぇざん、が好きで、おれっ」
ぼろっと、大きな涙粒眦から生じて、ぼどりと冥の掌墜つる墜つる。
「ふふんぅ…真実の涙零れた。流石フガクだぁ」
「ぅ…?めぇ、ざん?」
宙に浮かんだおっきな水色アイスキャンディー、それがフっと消え富嶽の手と腕解放される。
もう痛くない寒くない自由だ。
だから富嶽は冥に触れようとして、躊躇って指先彷徨わせる。
そんな富嶽の手を冥が取り、その掌に宝石渡す。
富嶽はそれを見た。
信じられないくらい透明な、うつくしい宝石だった。
「ボク、この宝石でフガクとお揃いの指輪と耳飾りが欲しい」
「ぐす…おぞろぃ、づげでぐれるんでじゅが?」
富嶽は宝石を握り締める。
冥は嬌笑、富嶽のおでこに口付ける。
「当たり前だよぉ」
「ねっぐれしゅも、ぶれしゅれっども?」
まだ涙が止まらないのは嬉しいから。
本当は以前からしたかったんだお揃い。
でも冥とのお揃いに富嶽は尻ごみしていたんだ。
そんな不安さえ見抜いたように、冥は富嶽の眦吸って頭を撫でる。
「…もちろんだよぉ、でも、それには少し宝石が足りないからぁ…ワガママ言わない。ボク、お揃いの指輪と耳飾り、それからフガクが居てくれるなら、それがイチバン嬉しいよぉ」
慈愛に満ちた微笑みと言葉に、富嶽は宝石握る手反対の、左手で冥を抱き寄せた。
「めぇ、さっごめんねっ!ありがとう!」
「んーんぅ…ボクのコトいっぱい考えてくれてありがとぉ、うれしぃ…」
そんな富嶽を冥は優しく抱き締める。
富嶽は、素敵でカッコイイ冥に似合う物絶対用意するんだと心に決めた。
「たんじょうび、は」
「んぅ」
「さぷらいず、したいから」
「んうっ」
「でーと、したい、です」
そのプランはまだ途中。
本当は何も知らない状態の冥にサプライズしたかったのだが、一端がバレたのだから全部バラしてしまった方が疑われずに済む。
また浮気を疑われたら、今度こそ富嶽の精神が崩壊してしまう。
だから素直にサプライズバースデーしますって言ったなら、
「もちろんだよぉふがくぅ」
冥がぎゅっと富嶽を抱き締め歓喜する。
富嶽は、当日もこうやって喜んで貰おうと思っていっぱい考えて、知恵熱を出すのだった。
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