第25話 紅の刃

「よっ、と」


水に浸した骨器を器から取り出して、私はそれを雑巾で綺麗に拭いた。


「……うん、いい感じ」


そうして出来上がったのは、骨製の小ぶりな“ナイフ”だ。


刃渡り10cm前後の小ぶりな刃で、握りは木製。ナイフとは言うが刃は潰してあり、殺傷性はない。


特徴としては、このナイフは私が“風刃”によって削り出したもので、私自身が竜化した時の骨を使っている。手に握った感じは私が竜の握力を持っているということを差し引いても軽く、普通の人間でも簡単に振るえるだろう。


刀身に彫られた特徴的な紋様のような溝から、一見実用性より儀式に用いるようなイメージを抱くかもしれない。しかしこのナイフに装飾やデザイン重視の細工は一切施していない。完全に実用重視だ。


そしてこの紋様が実用性を発揮するために必要なのが……柄尻に付けられた大きな赤い玉。


紅竜の“竜玉”だ。


「んじゃ、ちょっと試してみようか」


私が立ち上がり、自室のドアを開けた次の瞬間。


そこには誰もいなくなっていた。



はーいやって来ました。ここは士官学校周辺を囲む森林の中!


マイナスイオンが満ちてていい感じですが、今からこの森に〜……!!


“放火”していきたいとおっもいま〜す!!


……と、まぁ。登録者50人くらいのユーチューバーの物真似も済んだところで。


私は手に“紅の刃”を持って、軽めに切り払った。


「おぉっ」


その瞬間、刀身から刃の軌跡に合わせて炎が吹き出した。


「すげー。“竜器”って作れるもんなんだね」


“竜”という生き物は、“竜玉”を核として生きる生命だ。


竜の体を構成する肉も骨も血も、全ては竜玉から作り出される。竜玉を壊さない限りは竜は再生し続けるし、逆に言えば壊せばその瞬間絶命する。


この“竜玉”を、昔々変わり者と揶揄され人の集団からつまはじきにされた孤独な男が偶然手に入れ、そしてひょんな思いつきからこれを加工して暇つぶし用の玩具を作った。


これが教科書にも載っている最古の“竜器”とされている。


“竜玉”から竜が復活しないように薬品に浸し、そこに加工した竜の骨や肉から作った“導体”を備えることでさまざまな効果を引き出す。


竜玉という動力を、人間にも利用可能にした画期的な発明。


それが“竜器”だ。


現在においてもこの竜器は広く使用される。武器、インフラ、日常製品、衣服に至るまで。

総じて製造コストが高く高価なため、貴族や金持ちの商人にしか手に入らないような代物だが、自分で作る分にはその限りじゃない。


そして私は、自分自身が竜であるが故にそこらの一般人よりはま〜竜の生態について詳しいわけだ。

全ての人間が自分の体の仕組みを全て理解しているわけではないように、その道の専門家と比べたらそりゃ浅い理解かもしれないけどね。


でもこういう簡単な竜器を作る程度なら問題ない。


なんでいきなりこんなものを作り出したのかって?簡単に言えば、私が人間形態の時に使える武器が欲しかったのだ。


当たり前のことだが、私は人目のあるところでは竜に変身することはできない。ついでに言えば、人混みで目立つようなことは避けたいと考えている。


だが、これから学園で私が戦わなければいけない場面で毎度毎度そんな都合の良い状況を作れるとも思えない。戦いというのは得てして人が集まっている場所で起こるものなのだと私は学んだのだ。


であれば、竜に変身する以外の戦闘手段を持ちたいと思うものでしょ?


正体を隠す方法はすでにあるから、あとは竜を相手にしても互角以上にやれる何らかの戦闘手段。それを考えている折にぶーちゃんの竜玉という持ってこいな素材が手に入ったわけだ。


こりゃあ使うしかないよね!ってことで作り出したのがこの“紅の刃”だ。ネーミングがそのまんますぎるけど許してくれ。私に名付けの才能はない。


この“紅の刃”はどっかのフンフセイバーよろしく炎で出来た刃を刀身から伸ばして、切ると同時に切断面を灼いて止血するという効果を持っている。


なんて人道的なんだ。切っても人が死なない剣なんて、アタイ気に入ったわ!!なお対象者の激痛は考慮しないものとする。


見た目は派手だけど、出力も操作できるからサバイバルナイフ程度の出力でキャンプ飯と洒落込むことも、全開にして心を燃やしての炎の呼吸も再現できるという利便性。逃げるな卑怯者!(刀身伸ばして確殺)とかも可能。


適当に作ったにしてはかなり使い勝手は良さそう。


なんでいきなり私がこんなことをやり始めたのかと言えば答えは一つ。


“学術対抗戦”。


“竜角散”なら、ゲーム開始直後にキャラの紹介の意図もあって差し込まれているこのイベントも、イレギュラーの発生によって開催が遅れてしまったらしい。


私が余計なことしたせいで無かったことになるかもしれないという、夜ベッドに潜った時毎回押し寄せてくる不安を押し除けてちゃんとやってくれて、あたしゃもう感無量だ。


ありがとう藤P。ありがとう竜角散。そして全てのプレイヤーに、おめでとう。


“学術対抗戦”は騎士クラスの催しだ。私には関係のない行事……と思ったら大間違い。



生徒達の勇姿をこの目に焼き付けておかなきゃならんでしょーが!!!!!



そのためにお前っ、こんな苦労してお前っ、学園内の金庫に入って撮影機能を備えた竜器を無断で借りたりして再現できるように頑張ったんだから……っ!!


“紅の刃”なんてぶっちゃけオマケ。こんな火出すしか能がない竜器じゃ推しの姿を永遠に残しておくことも出来やしない。なーにが“五天災”だ。日本の消防は優秀なんだぞテメーけしかけたろかい。


……一旦落ち着こうか。シャッターチャンスは逃げやしない……ことはないが、対抗戦まではまだ少し時間がある。


来る日のために、カメラ型竜器の最終調整を行っておこうか……。


「ケイくん」


と、そんなことを考えていると不意に後ろから声がかかった。このD○siteで声優ができそうなセクシーボイスは……!?


「ちょっとお話しいい?」


勿論でございます靴を舐めて綺麗にいたしましょうか?光栄にございますでは始めますねぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ


「うん、いいよ」

「ありがとう。あぁ、気にしないで?別に変なこと言うわけじゃないから」


変なことだって?


この私に“変”と思わせるのは相当な努力が必要になるがその点ご理解して頂けていますかナ???(眼鏡クイッ)


「あなた、“学術対抗戦”が近日行われるのを知っている?」

「うん。騎士クラスの行事だよね」


そして話題もタイムリー。さすが間のいい女。よっ、キャリアウーマン!


「なら話が早いわ。あなた、そこに出場しなさい」

「……」


うん。


うん?うん。


「……え?」

「そして、ルゼフィールの優勝を阻止するの。簡単でしょう?」


……うーん。


俺、バカだからわかんねぇけどよぉ。


クロネ嬢が簡単って言ったら簡単な気がしてきたんだよな。

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