妖怪回帰

月島スバル

第1話 回帰

 地図とにらめっこをする。

「ここの辺りに妖怪を封印していると聞きましたが…」

 山肌が露出したわずかしかない足場に注意を払いながら歩いていく。


「玄奬、三蔵法師は来ているか」

「私はここに」

 広大な王の間には側近二人と壺がおいてある。

「法師よ。おぬしに経典をもらってきてほしい。」

「王の命とあらば私は構いませんが」

「金や地図はこちらが準備するさ」

「王?どちらまで行かせるつもりで?」

「仏教の経典なのだから天竺だろ」

「ここ、長安から天竺までですか?」

 推定でも1年以上はかかる計算というのは想像に難くない

「そう声を荒げるな、動揺してるようじゃ修行が足りないぞ。」

 そりゃ驚くだろ。現に側近の方たちも「え」と呟いてますし。

「今すぐ必要というわけじゃない。おぬしはすでに僧の中では名が知れている方だろ?朕の耳に入るくらいなのだから

 そんなおぬしに褒美、、、兼修行とでも思って、行って帰ってきてほしいんじゃ」

「3日後以降にまた来てくれ」

背いたら首を刎ねるというジェスチャー付き

「そうそう、天竺までの旅路にお供を手配する予定じゃったんだが都合が悪くてな」

「人じゃどうしようもない可能性があるんでな。花果山かかざんに封印されてると噂の守り神というより妖怪が居るそいつを従えていくがいい」

馬と金は手配するとのこと


 現在に至る

険しい岩肌を抜け、開けた場所に出ると

「大きな岩だ」

太い縄と札が張り巡らされた岩がある。

『何かいる』それがわかるほど妖力が堆積している感覚。

ここまで強い妖力を感じるのは初めてだ。

高揚。

岩肌や縄、札に触れる。

それは何年、いや何十年も雨風にさらされていたんだろう、ボロボロだ。

札に何か書いてある。

「■■■」

書いてあるものを声に出して読んでみる。

足元に何かが落ちていた。

札だ。

岩に張り付いていた札が1枚、また1枚と剥がれていく

ボトっと縄が落ちる

後ずさると同時に岩に亀裂が入る、

ガラガラと音を立てて崩れる岩。

視えはしないが大量の妖力が流れ出て、体をなでる感覚を全身に浴びる。

粉塵が晴れた其処には約1尺ほどの像があった。

「これが妖怪?」

どう見ても石。手で触れてみても石。

妖力を帯びている、発しているのは間違いないだろう。

「猿?」

像全体で猿を模しているように見える造形。

──影がかかる。自身を覆うほどの影。

その速度は異常でおかしいと直感する

風の音は消え、周囲の音が不快なさざめきに変わる。

視え始める。

「ぽぽぽぽぽぽ」

視線を上げると7尺はあるであろう魚のような妖怪が─

「ガッ」

視界が回転し、体が地面に叩きつけられる。

やらかした結界を張り忘れた。

小型妖怪はともかく大型は自身の住処でもない限り昼間には出てこないはずだ。

脇腹の辺りを狙われた、少なくとも骨は逝ってない。

魚の周囲には小魚の他に虫のような小型の妖怪も集まって来ている。

「とりあえず」

札を投げつけて簡易結界を張る。

魚から逃げるために時間を稼ぐ

猿の像を抱え、ひたすら林を駆ける

半ば滑り落ちるように走る走る

多少の数と大きさなら私でも対処できるが、

完全に妖怪退治専門の僧『破怪僧』案件の大型妖怪と数だ。

この林を抜けたずっと先に別入山口の見張り役と一人か二人破怪僧がいるはずだ

まずはそこに行っtッ

影が大きい

泳いできたのか!

「戒!」

札を地面に落とし唱える

護身用の札、簡易結界とは言えそれなりの硬度はある。

それが二分ももたない

影から出てきたそれは

「そうですよね。すこし安心しました。」

先ほどの魚とは形状が異なるが魚の妖怪だ。

「物騒ですね」

「ぽぽぽぽぽぽぽぽ」と口をパクパクしている様相とは裏腹に棘が無数に生えている。

それに所々に傷もある。

あと少しでこの林は抜けられたのに…再度簡易結界を張って開けた場所へ

ズキっと痛みが、手の甲に棘が刺さっている。

札を投げつけ、走り出す。

「」

「ぷっぷっぷっ」と何かを吐き捨てる音が嫌に耳につく、

その直後背中に痛みが襲う。

斜め前、棘のある小魚

適当な木を拾い遮る、、、いとも簡単に貫通する

反対にも小魚が、、、死に物狂いで避ける。走る。投げる。

「ハアハアハアハア」

何投目か針が額を掠めて流血、見えづらい、しかし、光。

「おi」

──!

「グッ  かッ」

体が持ち上がる。

背中から幹が折れるバキバキという音が聞こえる。

ドンと背中を打つ。息を吸い込む。

次に視界にとらえたのは日。

林は抜けたようだ。投げられたのか。

万全に準備しても駄目だったのでしょうね。

7尺はある大型妖怪が最低二匹、他多数の小型妖怪。

兄さんならきっと簡単に倒していたのでしょう。

毒があるのか手足の痺れ、意識が朦朧としてきた

「おい」

「幻聴まで聞こえますね」

「幻聴じゃないぞ」

「」

「だれですか」

虚空に尋ねる

「お前が抱えてる」

猿の石がしゃべってる?

「助けてやってもいいぜ」

そそのかされるな。

「私は昔から妖怪の言うことは」

「そうかい。俺もお前もこの状態じゃ死ぬな。」

「それどころかここ近辺周辺の人間も死ぬぞ。小妖怪のせいでな。

この俺の妖力を吸ってる妖怪は強えぞ」

もとはと言えば私が結界を張らず、あの岩を割ったのが原因だ。

自分が死ぬだけならまだしも、他の人まで死ぬ。

「…開放すればあの妖怪を退治してくれるのですね」

「ああ、俺は契りは守る主義だ」

「札貼って解とでもいえば解放だ。ケケケ簡単だろ?」

満身創痍。天秤にかけるは大量の妖怪と封印されていた妖怪。

「頼みますよ。」

その天秤を傾けるほうは決まっている。

「解!」

ボンと小さな爆発音とともに何かが飛び出す。

「ケケケ、五百年ぶりだなぁ!!!」

そこには朱色の服を着た5尺と6寸ほどの大きさで尾の生えた人が立っていた。

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