第23話 複雑な心境のお姫様

「つまり貴方が攫われたシャルロットを助けたと、そういうことなのね」

「まぁそういうことだ」


 盗賊の事を知らなかったであろうアルマナにトーヤが説明した。話を聞いたアルマナは複雑そうな顔をしている。


「――そう、ですの。そのことに関してはお礼をいう必要がありますわね。その、あ、あり、あり、ありありりりりいりっりりりりっりりっりりりりりりいぃぃいぃいいがああぁああっぁああぁああ!」

 

 ぐぎぎっと歯ぎしりしながらうめき声混じりにどうにかお礼を伝えようとしているシャルロット。だがトーヤ相手に素直にお礼をいう気にはなれないようだ。


「お姉様! とう! あとその二文字を言うだけですわ!」

「わ、わかってますわ! あぁああぁありいぃぃぃぃぃいがあああああああぁあががががりいぃいいいいあああぁあぁあ!」

「いや逆に戻っているだろう」

 

 最後のとうを言えないアルマナ相手にトーヤが突っ込んだ。だが当の本人はこれでも大真面目なのである。


「たく、別に礼なんていらんぞ。そんなものもらっても何の意味もない。どうせならコボらせろ」

「貴様のそういうところだろうが!」


 キャミーが目を見開いて怒鳴った。だがトーヤ本人は何が悪かったのかわかってないようである。


「まぁまぁ落ち着いてくださいよ姫様」


 ここで間に入ったのはギルドマスターのガイルであった。流石に目の前でこれ以上不毛なやり取りを見ていても仕方ないと思ったのだろう。


「そもそもで言えば貴様が元凶なのだ。それなのに殿下が頭を下げること自体が間違いであろう」

「なんということを言うのですわ!」

 

 トーヤに文句をいうハウザーだったがこれに異を唱えたのはシャルロットであった。


「トーヤ様はこの私を助けようとしたのです! そうでなければ今頃どうなっていたか。それともハウザーは私が盗賊にあんな目やそんな目にあってもよかったと!」

「め、滅相もない! そんなことをこのハウザーが思うわけないではないか!」

「だけどお前、そこの姫さんが半裸になった時ニヤけていただろう?」

「だ、黙れ! そんなことない!」

「ハウザー……」

「ち、違いますぞ姫様! 確かにいいカラダしてんなぁとは思いましたが!」

「いや素直すぎるだろう」


 シャルロットとアルマナからの冷たい視線を受け必死に弁解しようとするハウザーだったがキャミーからは呆れ眼で見られていた。ポロッと溢れた本音が余計だったようである。


「そういえばこの手の話で実は内部に黒幕がいたってのはよくある話だったな」

「き、貴様! このタイミングで何を言い出すんだ!」

「ハウザーまさか貴方」

「これはギロチンまったなしですわね!」

「ち、違いますぞ! この男の言ってることは全くのでたらめだ!」


 ハウザーが必死に否定するがその言葉が逆に怪しくますます疑いが深まった。


「全くトーヤも余計なことを」


 ガイルが頭を抱えながら言った。


「俺はそういう可能性もなくないんじゃないか? ぐらいの気持ちで言っただけなんだがなぁ」

「それが無責任だというのだこの馬鹿!」


 キャミーにも叱られ罰が悪そうな顔を見せるトーヤだ。とは言えこのままでは収拾がつかない。


「とにかく盗賊団については引き続きうちで調べますので報告をお待ち下さい。トーヤたちも報酬は調査が終わってからになるがいいか?」

「まぁ仕方ないな。それまで金が足りなければキャミーに借りる」

「誰が貸すか誰が!」


 トーヤの何気ない一言にキャミーが怒鳴った。


「トーヤ様、お金の心配なら御無用ですわ! 私を救ってくれたのですからお父様に言えばいくらでも謝礼を用意してくれる筈ですの」

「ちょ! シャルロットそんなこと勝手に決めてはいけません!」

「どうしてですの? お父様はそんなことでケチケチするような人じゃないと思いますが」

「それでも!」

「てか、そもそもシャルロットが攫われたことは王様もあんたも知らなかったのか?」

 

 トーヤがふと疑問に思ったことを口にした。二人がピキッという音でもしたかのように固まる。確かにギルドに来ていたアルマナもハウザーもトーヤを探していただけでシャルロットは心配してなさそうだった。


「そ、それは、シャルロットはなんというか勝手にお城を抜け出すくせがあって」

「うむ。それに皆なれてしまっていた感があるな」

「私も今日攫われて今日救われましたの!」

 

 どうやらシャルロットは城から抜け出す曲があったようだ。そして城を勝手に抜け出したことで攫われその直後にトーヤに救われたということだった。


「城も意外とセキュリティーガバガバなんだな」

「だ、黙れ!」


 トーヤが呆れた顔で言うとアルマナが不機嫌そうに応えた。


「そうだ! いっそのことトーヤ様が私の専属護衛になればよいですの!」

「何を言ってるの! そんなの絶対に駄目です!」

「とにかく、先ずはお父様に報告ですの! トーヤ様行きましょう!」

「えっといいのか?」

「あぁ。こっちはもう用事は済んだからな。面倒にならないように寧ろ言ってけ」


 こうしてガイルにも許可を貰いトーヤはシャルロットに腕を引かれながら城に向かうのだった――

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